第二章
この男 つまり私が語りはじめた彼は 若年にして
父を殺した その秋 母親は美しく発狂した 田村隆一 腐刻画
20
枯木色にひからびた腕を流れる動脈はなまなましくそこだけが生きているように青かった。ぎくしゃくと骨の動きもあらわな指を握り合わせようとするのだが、握力はなく、指先は手のひらにとどかず、小刻みにふるえている。
駆血帯が腕にまかれた。
……だが肉がほとんどついていないため、黒色の管は、腕をくびるように皮膚にくいこみ骨にまきつけられたような状態になった。
額とつきでた頬骨から顎にかけて、皺のよった艶のない和紙をはりつけたような蒼白の顔は、死期が迫っているとはあきらかだった。
からだを起こすことも、困難なのに、火の床に転移され、灰になることに逆らっていた。ぼくを見返す眼差は濁っている。
すでに言葉はだせなくなっていた。
医師は血管に針を刺した。
赤い血が注射液に滲んだ。
血だけは、あくまでも鮮やかだった。
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