episode 21 少年老い易く〈恋〉成り難し。
こんな大雪になるなんて――。
ぼくが風邪を引いてしまうなんて。
美智子ちゃんを見送りに行くと約束した時には、おもってもみなかった。
クラスの皆が美智子ちゃんを見送りに行くのだろうな。
ぼくがいくと、からかわれるだろうな。
「やあい。マグロが美智子ちゃん、好きなんだ」
「ああい。マグロが恋をするのかよ」
マグロというのは、ぼくがぶら下がったままだ。
醜く、鉄棒にぶらさがったままでいる。懸垂が出来ないで――。
そんなぼくが、魚屋にぶらさげられて、うられているマグロに似ている。
そういって、体操教師につけられた〈あだな〉だ。
「寝てなさい。熱が下がるまでは起きたらだめよ」
非情な母の声が枕元にひびいた。
いまごろ美智子ちゃんは、省線鹿沼駅でひとりさびしくぼくをまっている。
どうしょう。会いたいな。
いま、会わなかったら、もう、一生会えないかもしれない。
どうしたらいいのだ。
ぼくらは国民学校の六年生。
戦争が終わって疎開児童は東京にもどっていった。
いま見送りに行かなかったら……。
これっきり、美智子ちゃんには、会えなくなってしまう。
省線駅は国鉄駅となった。
国鉄駅はJRの駅となった。
そんなことは老人にはわからない。
「わたしが、10年たってもどってきて、ふたりは結婚したのに、それも忘れてしまっているのですよ」
介護に疲れたのか、老婆はしょぼしょぼした目でベッドの老人を見下ろしていた。
「美智子ちゃんに会いに行く」
老人は同じ言葉を、まだくりかえしていた。
外はあのときの朝のように大雪。
五センチメートル先も見えないような大雪だった。
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いま、会わなかったら、もう、一生会えないかもしれない。
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「わたしが、10年たってもどってきて、ふたりは結婚したのに、それも忘れてしまっているのですよ」
介護に疲れたのか、老婆はしょぼしょぼした目でベッドの老人を見下ろしていた。
「美智子ちゃんに会いに行く」
老人は同じ言葉を、まだくりかえしていた。
外はあのときの朝のように大雪。
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