田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

第十九章 麻薬汚染/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-04 06:39:48 | Weblog
第十九章 麻薬汚染

1

唄子は……。と、美智子がきいた。

日輪学院の建築中のビルで争っているものがいる。
駐在から連絡があった。
駈けつけた所轄の品川署の刑事は驚いた。
渋谷の百軒店で麻薬所持の疑いで逮捕された。
服飾デザイナーの大津健一の妻がいた。
職質をかけられて、その場から逃走した妻。
というよりタレントの酒の谷唄子がいた。
人気タレントだけに、ひそかに署に同行をもとめた。

「唄子さんは警察……」
それ以上のことは、キリコにもわからない。
「よかった。怪我はなかつたのね」
「負傷したのは翔太郎さんだけだった」
隼人がやさしい声でいう。

「あれって、なんだったの。なにがなんだか、わたしにはわからない」

美智子は翔太郎の病室にはいった。
「ジイちゃん。ダイジョウブ。わたしのこと助けに来てくれてありがとう」
翔太郎の肩の傷はたいしたことはなかった。
急所ははずれていた。
美智子はほっとした。

襲撃されたり、拉致されたりと。
美智子はあいつぐストレスで気落ちしていただけだ。
休んでいただけで、外傷はない。
元気をとりもどした。

唄子は――警察。取り調べ室。
マスコミにはまだ事件をかぎつけられていない。
……毎日テレビでは唄子のことは、取りあげられている。

だが美智子との関連は気づかれていない。

唄子は……電話が許された。
唄子は美智子に電話をかけた。
親身になって、体をはって筋ものから守ってくれた美智子。
わたしは、もう駄目。
オチメだ。
がらがらと、いままで築き上げた地位が、人気が崩れる音がきこえる。
美智子にはひとことお礼がいいたかった。
「唄子、やっぱり事情聴取にすなおに応じたほうがいいよ。
翔太オジイチャンが知り合いのいい弁護士を紹介してくれる。
会ってみない」

唄子が失踪してから一週間がすぎていた。
この間「薬が切れるまで」潜伏しているのだろうとか、
一緒に逃亡を助けている男がいる。
その男とは不倫関係にある。
とか、群がるマスコミはかってな憶測を電波にのせていた。
人気タレントの苦境は、蜜の味というところだ。

「それより……隼人さんの職業……
まさかいまはやりのボデーガードじゃないわよね」
「どうしてそうおもうわけ」
「強いもの、すごい格闘技だった。
空手の演武みたいだった。
それにキリコさん。
美智子は大勢の人に守られいる。いいなぁ」
「同じ事務所じゃない。力になるわ」
「あれ、昼のワイドショー見なかつたの? 泣きたいわ」
「…………??…………」
「わたし『バンビ』解雇されたのよ。
お払い箱。
億単位の迷惑かけたらしいのよ。
コマーシャルの違約金やなんやで事務所はたいへんな騒ぎになってる」
「ますます弁護士が必要ね」

美智子は唄子との電話をきってから事務所に電話した。

「社長。お願いがあります。唄子の解雇はいますこしまってもらえませんか」
「なんで、美智子が」
「センパイですから。
この業界にはいったときから、いろいろ教えてもらいました」
「もう、遅い。
マスコミにどうたたかれようが、これしかない。
うちが生き残るにはな」
社長の声が非情にひびいてくる。
「それより……明日は打ち合わせがある。時間厳守でたのむよ」

よかった。
日輪学院での闘争は知られていない。
わたしたちのことは、なになも知られていない。
「はい、もちろんです。社長」
美智子は涙ぐみなから携帯をたたんだ。
有名人の転落に歓喜して興味を持つのは日本人の悪癖だ。
わたしが、直人の死後。
沈黙をたもったときも。
好意ある報道をしてくれるところはすくなかった。
すごく悲しかった。
いまは賞をもらったあとだけに拍手やほめ言葉に支えられている。
唄子をなんとか弁護してあげなければ。
翔太ジイチャンの教え子の星弁護士をつけてあげよう。
それしかない。



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