田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

ハナミズキ/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-08-23 16:39:50 | Weblog
22

暑いのに黒服の男。
いまどきあまり見かけない酒焼けした赤ら顔。
いやそれはとんでもない誤解だ。
あれは血の飲み過ぎね。
男がにやにやしながらさらに近寄ってくる。

「同族の血の臭いに疎い奴らだ。
みずから墓穴をほったようなものだ」
どこかで会った記憶がある。
遠い未来のなかで、この男にはまた会うことになるだろうと思った。
それはいつの時代だったろうか。

歓楽街の嬌声が潮騒のようにきこえている。
「ねえっ、あれいこう」
「うん、あれいい。いこう。いこう」
キャッチの少女が今宵はじめての客をゲットしたらしい。
獲物の中年、スケベエジジイに向かっていく。
魔界の領域にあるボッタクリバーに連れ込まれ、
生き血を吸われるとは気づいていない。哀れな男。
ホステスたちはオウナーに過酷なノルマで生き血をすわれている。
不法滞在の女。東アジア諸国からの出稼ぎ。
少女が黄色い声をハデニはりあげ、
客をエッセ、ワッセといった感じでバーに連れ込む。

ひさしぶりの歌舞伎町はミイマには刺激的な風景ばかりだ。
……この男、だれだ。

電子音がミイマのピストルポケットで着メロを奏でる。
ハナミズキだ。
君と好きな人が百年続きますように。
という一青窈の歌からスピンオフした映画。
気にいったGGが、このメロデーにしたものだ。
わたしは何千年でもいっしょにいられるのに。
人間であるかぎりGGには、それはムリ。

身を引く男の哀れさがせつせつと歌いあげられている、
歌詞がGGを惹きつけたのだろう。

わたしが長く生きるという事実が、
GGには悲しい現実なのだろう。
わたしは長く生きつづけられるが、
GGにはそれができない。
いつかは別れが来る。
若いままで年を取らず生き続けるわたしを思慕している。
出会ったときは、
ふたりとも、いやGGのほうが若く見えたくらいだった。
いつかは、別れが来る。
未来の彼と末長く生きてください。
GGのわたしへの想い。わかりすぎるから……かなしい。

「おい、真面目に、おれの相手をしろ」
「あら、おまたせ。彼からの電話なのよ」
「そんなもの、出なくていい」



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