田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

1 もどってきたぜ/さらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-05-09 07:40:00 | Weblog
1 もどってきたぜ

3

「お兄ちゃん。まっていた。
翔子、お兄ちゃんが講師をやめて、
旅にでた日からずっとまっていたんだから……」

純にだきつくと翔子は泣きだした。

吸血鬼は切りおとされた血だらけの腕をひろいあげた。
切り口を長い舌をだしてベロリとなめる。
うぅまずい。
という顔になる。
「おじゃまのようだから、またくるわ」
だれももちろんひきとめなかった。

翔子はえりあしに純の息をかんじた。
息をかんじたところがほんのりとあたたかくなった。
しびれるような心地よさだ。
「噛まれていなかったようだ」
それが純のはじめてのことばだった。
旅からもどってきた。
そしてまっていた翔子にかけたことばがそれだった。
もう唐変朴。無粋。女心がわかんないのだから。
でも……わたしお兄ちゃんの彼女でもないシ。
わかれたときは、まだ小学生だったシ。
わたしが吸血鬼に噛まれてしまったかと本気で心配してくれているのだから。
ゆるしてあげる。

でもそのつぎにでたことばは……。
「翔子ちゃん、おとなになったな。胸もふっくらとして」
翔子は九十あるバストを純におしつけていた。
あわてて離れようとすると、
「ただいま。よくがんばっていたようですね」
とやさしくハグしてくれた。
翔子は涙がほほをつたってほろほろとおちるままにしていた。
感極まって泣いていた。
あいたかった。あの日からずっとまちつづけていた。
雑踏の中をあるいていても、
ふとお兄ちゃんに似た人がいるとあとをつけたりした。

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one bite please 一噛みして。おねがい。
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