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美智子は殺風景な部屋につれもどされていた。
このビルでなにかが起きている。誘拐された。
あのときの男の握力の凄まじさ。
まるで鉄の手でしめつけられたようだった。
王仁と名のった男。
隼人と争った男。
とてもフツウの人間ではない。
両眼が赤く光っていた。
あんなスゴイヤツが隼人やキリコの敵。
わたしの敵だった。
だからここには唄子がいる。
「アイツラさ、美智子……なにか言葉に訛りがあるよね。
東北訛りとも少し違う。でも似ている。
角田喜久雄が書くような、
山の人と里の娘の恋愛モノにむかし出演したことがあった。
平家の落人だという湯西川温泉でロケしたのよ。
そのとき話をきかせてもらった古老の言葉とよく似ている。
山の人、山か、というのは日本の原住民。
それを鬼、テングといって忌み嫌った。
そんなこといっていた」
「母の実家の鹿沼には、天狗を祭った『古峯神社』があるの。
東北のひとたちが信仰しているんだって。
遠野物語にもでてくる由緒ある神社よ」
ここからつれだされて――。ほかの部屋にうつされた。
隼人やキリコとあった。
なんのために、つれていかれたのか。
隼人やキリコを牽制するためだろう。
夢なんかじゃない。
隼人たちが助けにきてくれている。
そして、またもとのこの部屋になげこまれたのだ。
隼人……!! わたし、ここにいる。
わたしは、ここで、隼人が助けにきてくれるのを待っている。
助けて。はやく。助けにきて。
唄子がいる。
「唄子、逃げよう。
ここからふたりで逃げるのよ。
いまに、隼人が助にきてくれる」
「隼人さんが、きているの?」
「そう、すぐそこまできてる。
いま会ってきた。キリコさんもきてる。
みんなで、わたしたちのことを助けにきている」
「みんなで……」
「すぐ助にきてくれるわ」
はやくきて。
隼人とキリコが戦っていた。
わたしのために隼人が命をかけてたたかっていた。
はやく助けて。
隼人。隼人に呼びかけている。
わたし隼人に呼びかけている。
直人でないことは、このわたしがいちばんよく知っている。
直人がもうこの世にはいないことは、わたしがいちばんよく知っている。
直人への未練をたちきろうと、こころのなかで隼人を呼んでいた。
リアル世界にはもう直人はいない。
わかっている。
わかっているのに、どうしょうもない。
まだ、直人への未練はたちきれない。
でも、助けにきてくれるのは隼人だ。
キリコだ。
助けにきて。
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美智子は殺風景な部屋につれもどされていた。
このビルでなにかが起きている。誘拐された。
あのときの男の握力の凄まじさ。
まるで鉄の手でしめつけられたようだった。
王仁と名のった男。
隼人と争った男。
とてもフツウの人間ではない。
両眼が赤く光っていた。
あんなスゴイヤツが隼人やキリコの敵。
わたしの敵だった。
だからここには唄子がいる。
「アイツラさ、美智子……なにか言葉に訛りがあるよね。
東北訛りとも少し違う。でも似ている。
角田喜久雄が書くような、
山の人と里の娘の恋愛モノにむかし出演したことがあった。
平家の落人だという湯西川温泉でロケしたのよ。
そのとき話をきかせてもらった古老の言葉とよく似ている。
山の人、山か、というのは日本の原住民。
それを鬼、テングといって忌み嫌った。
そんなこといっていた」
「母の実家の鹿沼には、天狗を祭った『古峯神社』があるの。
東北のひとたちが信仰しているんだって。
遠野物語にもでてくる由緒ある神社よ」
ここからつれだされて――。ほかの部屋にうつされた。
隼人やキリコとあった。
なんのために、つれていかれたのか。
隼人やキリコを牽制するためだろう。
夢なんかじゃない。
隼人たちが助けにきてくれている。
そして、またもとのこの部屋になげこまれたのだ。
隼人……!! わたし、ここにいる。
わたしは、ここで、隼人が助けにきてくれるのを待っている。
助けて。はやく。助けにきて。
唄子がいる。
「唄子、逃げよう。
ここからふたりで逃げるのよ。
いまに、隼人が助にきてくれる」
「隼人さんが、きているの?」
「そう、すぐそこまできてる。
いま会ってきた。キリコさんもきてる。
みんなで、わたしたちのことを助けにきている」
「みんなで……」
「すぐ助にきてくれるわ」
はやくきて。
隼人とキリコが戦っていた。
わたしのために隼人が命をかけてたたかっていた。
はやく助けて。
隼人。隼人に呼びかけている。
わたし隼人に呼びかけている。
直人でないことは、このわたしがいちばんよく知っている。
直人がもうこの世にはいないことは、わたしがいちばんよく知っている。
直人への未練をたちきろうと、こころのなかで隼人を呼んでいた。
リアル世界にはもう直人はいない。
わかっている。
わかっているのに、どうしょうもない。
まだ、直人への未練はたちきれない。
でも、助けにきてくれるのは隼人だ。
キリコだ。
助けにきて。
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