田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

愛の絆(6)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-21 04:26:06 | Weblog
6

――直人、なおと、ナ…オ…ト……。

こんどは、美智子の思念が、幽かにかすかにながれてきた。

――助けて……。

翔太郎と隼人がその思念を受信した。
直ぐ近くから発信されている。
ふたりは走りだした。
ろくに食事もあたえられていなかった。
そんなことは忘れている。
体力が弱っていることは気にならない。
孫を救いだしたい。
それは智子のねがいでもある。

直人と呼びかけている。
美智子さんは、錯乱している。
直人がまだ生きているような。
錯覚。願望ではない。
リアルにまだ直人が存在しているとおもっているのだ。
さきほど、接触したときも直人と呼びかけてきた。
かぼそい、まったく抑揚のない声だった。
美智子は憔悴しきっているのだ。
はやく助けなければ!!

隼人の背筋が総毛だっような感覚におそわれた。
いる。
この部屋だ。
ノブに手をかける。
手の皮膚がひりひりした。
開ける。

黒服の男の向こうに美智子がいた。
引き戻された美智子がいた。
女を抱き起している。
美智子顔がゆがんでいる。
女は唄子。美智子は恐怖におののいている。
それでも、唄子を抱え込んでいた。
みずからの体を盾にしていた。
友だちのことは守る。
生命にかえても守る。

「唄子、おまえは信用できない。捕まればなんでも喋る。
邪魔だ。唄子おわりだ。死んでくれや」
王仁がぼそぼそいっている。
翔太郎と隼人が、秀行とキリコがへやに乱入した。
それをまったく意に介していない。
翔太郎は男の背後からとびかかった。
拳銃を持った手をかかえこんだ。
男が発砲した。
壁に弾はあたった。
跳弾となって何ヵ所かのコンクリートの壁をけずった。
秀行の配下がかけつけるだろう。
銃声はきこえた。
この音はきこえたはずだ。

ビジョンで伝わってきた智子の最後の言葉。
翔太郎に勇気をあたえた。
おれは妻さえ守れなかった。
でも、妻にいわれたとおり、孫の美智子は守ったからな。
とび跳ねた弾が翔太郎の肩にめりこんだ。

孫を守ることがこのジジイにできた。
だったら……。
すまない。
智子。
おまえのことだって守れたはずなのに。
ひとり家にのこすべきではなかった。


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