田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

美智子の涙(4)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-30 09:21:16 | Weblog
4

ぼそぼそと美智子はつぶやいている。
キリコは美智子をみおろしていた。
ベッドによこになり、唇がかすかに動いている。
ツブヤイテいるようだ。

あんなにすきだった直人と、離れ離れになってしまった。
それもこの世とあの世。
けっして、距離の縮まらない世界。
けっして、会うことはできない隔たり。
悲嘆にくれた。
なにもすることがなかった。
まいにち庭に作った霧降の滝をみて過ごした。
まいにち滝をみながら直人をかきくどいた。
どうして死んでしまったの。
どうしてわたしを残して死んだの。
わたしは永遠に苦しむために、直人とめぐりあったの。
そんなのって、寂しすぎる。
寂し過ぎるよ。
悲し過ぎるよ。
もういちどあの広くたくましい胸にだきしめてもらいたいのに。
直人はもうこの世界にいない。
ふたりですごした思いで。
たわたしはいつまでも忘れない。
わたしが生きているかぎり。
この世界のわたしの思いでの中に。
あなたは生きている。
直人は生きている。
そう思ったら、わたし生き続けていく勇気がわいてきた。
わたしが生きていれば、直人も生きているのだ。
永遠にわたしといっしょに。
わたしといっしょだよ。
そして、直人は生きていた。
三年目。直人の三回忌。
わたしは声をかけた。
だって直人が生き返ったとしか思えなかった。
「霧降に行くの?」
少年は、「そうです」と応えた。
直人そっくりの顔。
でもアクセントが微妙にちがっていた。
「歩くのがすきですから」
ああ、それからの霧降の滝までの彼と歩いた時間。
たのしかった。
だれなのか、名前を訊きたい誘惑。
でも、訊きたくない。
直人と歩いていると思いたかった。
いや、トキメイテ、すっかりその気分でいた。
直人がわたしに用意してくれたサプライズ。
従弟の隼人が。
フロリダから。
はるばる。
日光は霧降の滝にやって来たのだった。
直人には未来が見えていたのかもしれない。
なぜ直人の三回忌に、隼人が霧降にやってくるのがわかったのか?
直人は死に瀕して、未来を透視していた。
ぼくになにかあって死ねば。
三年後にはいまのぼくの歳になる隼人が現れる。
兄弟のように育った隼人だ。
ぼくの歳になったら、ぼくのすきだった霧降に現われる。
新しい気もちになって……彼とやりなおしてくれ。
そんなメッセージがこめられているようだ。

その隼人は病室の窓の外をみていた。
長い一日だった。
美智子を救出にかけつけた。
日輪学院での戦い。
翔太郎さんも監禁されていた。
唄子もいた。
3人を助けだした。

窓の外は夕暮。
通りでは車のヘッドライトが光の帯をなしていた。
同じ3階の病室に行ったはずだ。
翔太郎と秀行のいる病室にいるはずのキリコだ。
病院の正面入り口をキリコが歩いて歩道にでていく。
隼人はほっとして、
迫りくる夜景を眺めるどころではない。
不審な行動だ。
あわててキリコに携帯をいれた。
反応がない。
すたすたと歩道あるきだしている。
だれかを尾行しているようでもある。
もうじき建物の陰にな。
隼人は迷った。
美智子をこのままにはしておけない。
廊下にとびだした。
ナースセンターに声をかけた。

「だれかガードをよこしてくれるように頼んで」

秀行がなんとかしてくれるだろう。



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