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さっと行く手に影がさした。
危険。
鹿がでます。
サルには餌を与えないでください。
日光のサルは危険です。
そんな看板が立て続けに道端に設置されている。
渓流にかかった橋を渡ったところだ。
空気は冷えていた。
瀬音も清々しい。
標識に手をかけて老人が立っている。
渋柿色の道着をきていた。
着古して色あせ、うす茶色になっている。
老人は年に不相応な精気がみなぎっている。
痩身。
それでいて、老人らしからぬ黒髪。
精悍な顔が隼人の力量をうかがっている。
「榊一族の若者よ。よくぞこの二荒の地に立ち入ったな」
言葉どおり歓迎しているのか。
皮肉をこめているのかわからない。
「ここはどこですか」
「しらないのか。親からなにも伝承していないのか。それともおとぼけか」
「そんなのぼくには関係ない。そんなの関係ない」
「アメリカ帰りだというのに、学習能力はあると見た。
小島よしおのネタか。すこしふるいギャグだがな」
「……ずっとぼくのこと見ていたんですね。いつからですか」
「ぬかせ。ここはわれら黒髪と榊と鬼族が三つ巴となって。
いくたびか戦ってきた赤染川だ。
存亡をかけてのわれら祖先の戦いの血で真っ赤になったという川だ」
「そんなの関係ない」
「バカかおまえ」
老人が気をたたきつけてきた。
「初見参、榊隼人」
「先刻承知。黒髪族のサル彦ジジイだ」
サル彦の黒髪がバサッとのびた。
うしろでペニス縛りにしている。
老人なのに黒々とした長い髪がさらにのびてきた。
その先は針のように尖っている。
目くらましだ。
幽冥の世界に迷い込んでしまたのか。
何本かまとまると牙のように鋭利だ。
隼は道路標識の頂点に跳んで避けた。
片足でたっている。酔拳の構えのように見える。
辺りの現実感が薄らいでいく。
「くやしいが見事だ。アメリカで遊んでいたわけではないな」
「アメリカには世界中の武芸者があつまってきていますから。
黒髪流の髪(かみ)技(わざ)道場でもだしらいかがですか」
「隼人。ジジイをからかうか」
ボギっと標識が切断された。
きったのは刃物ならぬ、サル彦の黒髪だ。
鋭利な鋼の鞭で一薙ぎされたようだ
すかさず攻めてくる無数の黒髪。
隼はサツト腕で顔面を覆った。
コートがキュッとひきしまり隼人の体の線をうきたたせた。
隼人の動きに精悍さが漂いだした。
暴力をふるう昂ぶりはない。
「霊体装甲か。
榊の民の毛髪をおりこんだというボディスーツか。
ゲゲの鬼太郎のチャンチャンコみたいだな」
霊体装甲ときいて思い当たるものがあるようだ。
直人がぼくを守ってくれる。
ゴセンゾサマガおれの中に生きている。
ぼくの故郷への帰還をよろこんでくれている。
隼人はホンワカと笑う。
屈託のないいい笑顔だ。
「拳銃だってポケットにありますよ。
充電済みの直人の携帯もあるし。
いつでも110番できますよ。
日本のポリスは優秀だからすぐ駆けつけてきます。
そうなると殺人未遂でタイホされちまいますよ」
「バカか。敵に手のうちを明かすやつがいるか」
「黒髪族も榊一族もおなじ下毛(しもつけ)の先住民であったときいています。
もうこの時代になってまで争うことないはずです」
「ぬかせ」
憤怒の形相でサル彦は黒髪をあやつっておそってくる。
「オジイチャン。もういいから止めて。やめて」
サル彦と隼人の間に、人影が滲んだ。
全裸で無防備な美少女が現れた。
一瞬、周囲のドギモをぬく。これまた目くらましだ。
両手をひろげてサル彦を制止する。
「くるな。キリコ」
隼人の逃げ技。
毛髪の攻撃を避ける技。
防御の技は。
サル彦の攻めを紙一重で見事に避けている。
榊一族のすべての事象と共存しようとするスピリットの表われだ。
争わずして勝。
自然とともに生きる。
どんな災害も受け流す。
遥か古代から受け継がれてきた技なのだろう。
「オジイチャン。やめて」
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
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危険。
鹿がでます。
サルには餌を与えないでください。
日光のサルは危険です。
そんな看板が立て続けに道端に設置されている。
渓流にかかった橋を渡ったところだ。
空気は冷えていた。
瀬音も清々しい。
標識に手をかけて老人が立っている。
渋柿色の道着をきていた。
着古して色あせ、うす茶色になっている。
老人は年に不相応な精気がみなぎっている。
痩身。
それでいて、老人らしからぬ黒髪。
精悍な顔が隼人の力量をうかがっている。
「榊一族の若者よ。よくぞこの二荒の地に立ち入ったな」
言葉どおり歓迎しているのか。
皮肉をこめているのかわからない。
「ここはどこですか」
「しらないのか。親からなにも伝承していないのか。それともおとぼけか」
「そんなのぼくには関係ない。そんなの関係ない」
「アメリカ帰りだというのに、学習能力はあると見た。
小島よしおのネタか。すこしふるいギャグだがな」
「……ずっとぼくのこと見ていたんですね。いつからですか」
「ぬかせ。ここはわれら黒髪と榊と鬼族が三つ巴となって。
いくたびか戦ってきた赤染川だ。
存亡をかけてのわれら祖先の戦いの血で真っ赤になったという川だ」
「そんなの関係ない」
「バカかおまえ」
老人が気をたたきつけてきた。
「初見参、榊隼人」
「先刻承知。黒髪族のサル彦ジジイだ」
サル彦の黒髪がバサッとのびた。
うしろでペニス縛りにしている。
老人なのに黒々とした長い髪がさらにのびてきた。
その先は針のように尖っている。
目くらましだ。
幽冥の世界に迷い込んでしまたのか。
何本かまとまると牙のように鋭利だ。
隼は道路標識の頂点に跳んで避けた。
片足でたっている。酔拳の構えのように見える。
辺りの現実感が薄らいでいく。
「くやしいが見事だ。アメリカで遊んでいたわけではないな」
「アメリカには世界中の武芸者があつまってきていますから。
黒髪流の髪(かみ)技(わざ)道場でもだしらいかがですか」
「隼人。ジジイをからかうか」
ボギっと標識が切断された。
きったのは刃物ならぬ、サル彦の黒髪だ。
鋭利な鋼の鞭で一薙ぎされたようだ
すかさず攻めてくる無数の黒髪。
隼はサツト腕で顔面を覆った。
コートがキュッとひきしまり隼人の体の線をうきたたせた。
隼人の動きに精悍さが漂いだした。
暴力をふるう昂ぶりはない。
「霊体装甲か。
榊の民の毛髪をおりこんだというボディスーツか。
ゲゲの鬼太郎のチャンチャンコみたいだな」
霊体装甲ときいて思い当たるものがあるようだ。
直人がぼくを守ってくれる。
ゴセンゾサマガおれの中に生きている。
ぼくの故郷への帰還をよろこんでくれている。
隼人はホンワカと笑う。
屈託のないいい笑顔だ。
「拳銃だってポケットにありますよ。
充電済みの直人の携帯もあるし。
いつでも110番できますよ。
日本のポリスは優秀だからすぐ駆けつけてきます。
そうなると殺人未遂でタイホされちまいますよ」
「バカか。敵に手のうちを明かすやつがいるか」
「黒髪族も榊一族もおなじ下毛(しもつけ)の先住民であったときいています。
もうこの時代になってまで争うことないはずです」
「ぬかせ」
憤怒の形相でサル彦は黒髪をあやつっておそってくる。
「オジイチャン。もういいから止めて。やめて」
サル彦と隼人の間に、人影が滲んだ。
全裸で無防備な美少女が現れた。
一瞬、周囲のドギモをぬく。これまた目くらましだ。
両手をひろげてサル彦を制止する。
「くるな。キリコ」
隼人の逃げ技。
毛髪の攻撃を避ける技。
防御の技は。
サル彦の攻めを紙一重で見事に避けている。
榊一族のすべての事象と共存しようとするスピリットの表われだ。
争わずして勝。
自然とともに生きる。
どんな災害も受け流す。
遥か古代から受け継がれてきた技なのだろう。
「オジイチャン。やめて」
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