田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

バタフライナイフ/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-06-22 07:14:02 | Weblog
バタフライナイフ

7

おどろおどろした凶悪な殺気が夜の底からわきでている。
新月が照らす墓標の群立をぬってまちがいなくこちらにやってくる。
「きますね……」
純は鬼切丸をはやくもぬきはなった。
「Gもこれを。翔子さんがおいていったものと、村上道場には鬼切丸三振りありましたから……」
「いや、おれも鬼切丸がある」
「ごめんなさい。Gのところは、野州夢道流の分家でしたね」
「だから鬼切丸をいつも持参しているわけではないのだが。このところナイフによる殺傷事件がおおいから。いつなんどきこちらに突発しないとはかぎらない。黒磯の英語女教師がバタフライナイフでさされた事件があったからな」
「あれからですね。ナイフによる傷害事件が多発するようになったのは」
「ああ、毎日のように、いやな事件がおきている」
ひとびとは、いますぐそこにある危険に、無頓着だ。
じぶんの周りでも凶悪な魔物がナイフをもってうろついているのに気づいていない。
墓地のはてで遠吠えがする。
獲物の侵入に奮い立っている遠吠えだ。
墓石の影から黒犬がとびかかってきた。
吠え声もあげず、闇からとびだした。
この犬は気配を絶つことができる。
ふいに闇からおそいかかりその鋭い牙で敵を倒す。
まさに、犬というより狼に近い。
腰のくびれた狼の姿態をしている。
純は鬼切丸を一振りした。黒犬はかわす。
「翔子をかえせ!!!」と純。
「翔子はどこだ!!!」とGG。
GGも怒り心頭に発していた。
忿怒形。
逆立つ髪。
焔髪。といっても頭髪のない悲しさ。絵にはならない。

黒犬がGをおそった。
できるだけひきつけた。
犬は身をかわすことができなかった。
ぎりぎりまで迫った。瞬時GGの突きがノドをつらぬいた。
吠えもしない。ばたりと地面に倒れ落ちた。
「くるぞ」
GGの声がまだ消えやらぬ間に、黒装束の忍者みたいな人影にとりかこまれていた。
「望み通り、翔子をつれてきたぞ」


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