田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

紅子との対話2/さすらいの塾講師  麻屋与志夫

2010-06-11 03:40:53 | Weblog
紅子との対話2


12

翔子は純と手を握りあっていた。
紅子とにらみあっていた。
「鬼はあんたらをわたしたちにけしかける作戦にでた。
あんたらはあいつらの味方している。
わたしたちつらいね。サンドイッチみたいだわさ。
このへんで休戦にしませんかよ」
だめ。だまされる。翔子はギュッと純の手をにぎりかえした。
純の手がそんな翔子の緊迫したこころを和らげてくれた。
優しくつつみこんでくれた。
あせることはない。あせらず紅子のいいぶんをきいてやろう。
翔子はおおきく深呼吸をした。
「翔子さんは若くて、これから青春だなんてうらやましいわ」
紅子はまるでふたりを相手に世間話をしているようだ。
「男たちは歌舞伎町の制覇だとか、
日本を牛耳るなんてたわごと並べたてる。
わたしは女だから正直あまり興味ない」
あれほどの戦いを翔子たちと演じたにしては、
しおらしい、いいぐさだ。
それに綺麗なひとだから、言っていることに説得力がある。
「翔子さんは、純ちゃんとラブラブ。
いいな。いいな。うらやましいぞよ」
「ぼくらだって、こちらからすすんで吸血鬼掃討はしたくない。
静かに生きていきたい。
ただひとが吸血鬼に襲われているとわかれば出動する。
ひとが血をすわれていれば助ける。ただそれだけのことだ」
「それができないのよね。
わたしたちは捕食動物の本能を残している。
弥生式へと進化した人間とはちがう道をえらんだの。
人工血液で生きられないことはないのだけど……
ひとの血をすうことに罪の意識はないわ。
ひとが動物の肉を食べるのになんのためらいもないのと同じよ。
でも、日本に出稼ぎにきて天敵、
あんたらみたいなひとに会うとはおもわなかった。
はるか東方のジパング、わたしたちの楽園だとおもってきたのにね……」

「こんど会うときは、また敵ですね」
「悲しいことだけど、そういうことになるわね」

翔子は純と紅子の対話にききいっていた。
手にグッショリと汗をかいている。

「このまま帰すんですか」
芝原たちが隣の部屋からなだれこんできた。
「おだまり。このひとたちは、わたしの客人よ」

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