田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

皆ありがとう/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-06-23 15:22:24 | Weblog
皆ありがとう

9

「鹿沼のGちゃん」
わたしのためにかけつけてくれた。
鹿沼のGちゃん。
翔子はなつかしい眼差しでみつめる。
でも、どうして? 鹿沼からきたの。
純。
純に元気で会えてうれしい。
そして、敵であるはずの紅子まで。
ありがとう、ありがとう。
翔子は心の底からみんなに感謝した。
ほんとうにうれしい。ありがとう。

翔子は生きていることが信じられない。
あのまま人狼に食われてしまうと覚悟していた。
GGが鬼切丸をふるっている。
みんなが、わたしのために命がけで戦っている。
わたしのためにかけつけてくれた。
鹿沼のGちゃん。
純。
そして、敵であるはずの紅子まで。
ありがとう、ありがとう。

翔子と紅子のあいだには、敵としての関係を超えた女同士の友情が芽生えている。
パーフェクトな男性社会である人狼にはふたりともイヤラシサを感じている。
そして貪欲な肉食系。
凶暴さ。

純が翔子にかけよる。
「純!! あいたかった」
気丈な翔子が涙をこぼしている。
よほど悔しかったのだ。
よほど怖かったのだ。

「純。鬼切丸をかして」
「翔子の鬼切丸はこれだ」
「アイツラ、わたしの腕の肉を食べたのよ。ゆるせない。
くちゃ、くちゃ噛みながら、うまいなんて評価していたの。ゆるせない」
 
GGは翔子がたすけられたのを見た。
翔子は元気だ。安心して、翔子たちを囲んだ人狼の群れに切りこんだ。
なんとかしてこの囲みをやぶって街にでなければ。
あの抜け穴までは50メートルはゆうにある。
人狼はいくらきりたてても減らない。
街に補食にでていたものが、変異に気づきもどってきている。
頭数はふえるばかりだ。
墓地でも狩はできる。
そうヤッラは思っている。



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もどってきた紅子/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-06-23 06:37:16 | Weblog
もどってきた紅子

8

ウエストサイド物語の指パッチンではないが、バタフライナイフでチャカチャカと威嚇音をあげてせまってきた黒装束の中央に、いた。翔子だ。左肩から血が流れた跡がある。
「翔子」
純が叫んだ。
悲痛な声だ。
取り乱している。
翔子を捕獲している男にむかって突き進んだ。
前進を阻まれる。
幾重にも男たちが立ちはだかる。
男たちの必殺の怒号と純の叫びが翔子を気づかせる。
失神から目覚めた翔子が「純」と一声呼びかける。
男たちは堅牢な遮断機のように純の前進を拒んでいる。

「刀をすてろ。純」

翔子を抱え込んでいる男がいう。
静かな声だ。

「すてるんだ」
「そっちのジジイも」

ナイフの音にあざ笑われているようだ。
チャカチャカチャカ。
このとき、その金属音にほかの音がひびいた。
キーンというような超音波? らしき音。
人狼があわてて耳をふさぐ。
ナイフを取り落とす。
いつのまに忍び寄ったのか紅子が翔子の脇に立っていた。
翔子を突きしとばす。
翔子と入れ替わった。
「逃げたんじゃなかった。敵が人狼とわかったので仲間を呼びにいって、手間取った。でも、もみんな人狼が相手となると、しりごみして。たつたふたり。情けないよ」

ル・芝原と柴山が翔子を守っている。

「なにをグチグチ言っている。おまえだっていい。きりさくぞ」
「わたしは紅子。吸血鬼よ。あんたらと同じで簡単には死なないから」

紅子がさらに金属音を発した。

キーン。
キーン。
キーン。



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