田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

捕らわれる/さすらいの塾講師  麻屋与志夫

2010-06-08 04:36:19 | Weblog
捕らわれる


10

「どうしてふみこまないの」
「紅子は夜の一族だ。
いまが彼女の能力がいちばん強い。
わざわざそんなときに戦いを挑むことはない」

そういわれても、翔子は不満だった。
蒼然とした古屋敷だった。
すたすたと門をはいる。
門の瓦はずれていた。
いまにもおちてきそうな瓦屋根の門をくぐった。

庭には日本式庭園なのにバラが一面に咲き誇っていた。
玄関には堂々と板看板。
墨痕鮮やかに『在京ルーマニア人協会』。

「あら、よくわかったね」
紅子がにこやかに出迎えてくれた。
なにか、おかしな雰囲気だ。
いままでの兇暴な態度はどうしたのだ。
背後から芝原たち黒服がドカドカとあらわれる。
翔子と純の歯をむく。

「あなたたちだれのおかげで鯨飲馬食できるの。
きょうだって飲みすぎよ」

芝原たちはだまってしまった。
紅子はとんでもない四字熟語をしっている。
翔子は純と共闘できることがうれしくてしょうがなかった。
だか、この激しい疲労感はどこからくるのだ。
純のいうことをきいて引きかえしたほうがよかった。
だがもう遅い。
乞われるままに、座敷にあがりこむ。
なにも紅子のいうことには逆らえない感じだ。
純にいわれたように、あのままひきかえせばよかった。
危険だ。
このままではヤバイ、と頭の中で警鐘がなりひびいている。

「どう、バラの花きれいでしょう」
庭に面した部屋に通された。
畳の部屋だ。
座布団がだされた。
芝原がお盆にお茶をいれてくる。
なにからなにまで日本式だ。
でも、翔子からみれば、
外国映画のなかのひとコマみたいで、
背筋がむずむずする。
なにか、やはりオカシイ。
なにか、どこかに狂いがある。
逃げたほうがいいかも。
怒ることができない。
闘うことができない。
闘争心がまつたくわかないのだ。
牙をぬかれたようだ。

「平和に話し合いましょう」
余裕の声で紅子がいった。



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