田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

奥さまはvampire/ 麻屋与志夫

2009-04-21 16:45:01 | Weblog
奥様はvampire 5

○もしかしたら幻覚なのかもしれない。

○もしかしたら錯覚なのかもしれない。

カミサンが若やいで見える。

……わたしの願望からくる幻覚なのかもしれない。

錯覚なのかもしれない。

○「あの一作だけで書くのは止めるの」

彼女のいう一作というのは「孫に引かれて文壇デビュー」のことだ。

麻耶の人気のおかげで出版された。

ほどほどに売れている。

いくらけしかけられても、干からびた頭には新たな作品のイメージが浮かばない。

○「それよりまた薔薇園に行きたいな」

「わたしに気をつかわなくていいから。ねえ、どうなの? 書いてみてよ」

さわやかな五月の薫風が黒川べりの遊歩道をふきぬけていく。

ひんやりとした風が頬に心地よい。

これから作品を書くとしたら、なにをどう書けばいいというのだ。

○不景気のため「巣ごもり消費」などとう言葉がテレビで話題になっていた。

かんがえてみると、わたしたちは「巣ごもり夫婦」だったのかもしれない。

○「そのことは思い出さないほうがいいわ」

カミサンに心を読まれている。

やはり錯覚なんかではない。

mimaはヤッパ麻耶がいったように、魔女なのかもしれない。

いや、魔女も、マインドバンパイアも同一の種族なのだろう。

○「そうよ」とカミサンはけろっとしていう。

「あなたのことはいつまでも忘れないから」別れてしまえば、長い彼女の歴史の中

でわたしとのことなどほんの一瞬のこと。

忘れられてしまうだろう。

昨日わたしがかんがえていたことへの回答だった。

○「うれしいこといつてくれる」

わたしは涙ぐんでいた。

○「けっして忘れないから」

○わたしたちは会話に没頭していた。

向こうから肥満女が急速接近してきた。

太っているのにすごく速く歩いている。

どんとカミサンにつきあたった。

なんの抵抗もなく通り過ぎていく。

カミサンが一瞬消えたようだった。

いや、あの女にはカミサンが目にいらなかったのだ。

他の人には、最近の彼女が見えない。

戦慄が背筋をはしった。

○「そんなことはないわ。よけたのよ。こんなふうに」

確かに、彼女がこんどはよこに飛び退るのがみえた。

○若さがなければだめ。

売れる見込みがなければ相手にされない。

これからなにを書けばいいのだ。

わたしは立ちどまっていた。

風が心地よい。

まだ生きている。

まだなにか書けるかもしれない。

彼女が消えるまでに、この一年で新作を発表したいものだ。

それには彼女とすごしたこの半世紀のことを書く。

それしかないだろう。

○五月風がふいている。

河川敷の新緑が風に揺れていた。




one bite,please. ひと噛みして!! おねがい。
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ああ、快感。