奥様はvampire 5
○もしかしたら幻覚なのかもしれない。
○もしかしたら錯覚なのかもしれない。
カミサンが若やいで見える。
……わたしの願望からくる幻覚なのかもしれない。
錯覚なのかもしれない。
○「あの一作だけで書くのは止めるの」
彼女のいう一作というのは「孫に引かれて文壇デビュー」のことだ。
麻耶の人気のおかげで出版された。
ほどほどに売れている。
いくらけしかけられても、干からびた頭には新たな作品のイメージが浮かばない。
○「それよりまた薔薇園に行きたいな」
「わたしに気をつかわなくていいから。ねえ、どうなの? 書いてみてよ」
さわやかな五月の薫風が黒川べりの遊歩道をふきぬけていく。
ひんやりとした風が頬に心地よい。
これから作品を書くとしたら、なにをどう書けばいいというのだ。
○不景気のため「巣ごもり消費」などとう言葉がテレビで話題になっていた。
かんがえてみると、わたしたちは「巣ごもり夫婦」だったのかもしれない。
○「そのことは思い出さないほうがいいわ」
カミサンに心を読まれている。
やはり錯覚なんかではない。
mimaはヤッパ麻耶がいったように、魔女なのかもしれない。
いや、魔女も、マインドバンパイアも同一の種族なのだろう。
○「そうよ」とカミサンはけろっとしていう。
「あなたのことはいつまでも忘れないから」別れてしまえば、長い彼女の歴史の中
でわたしとのことなどほんの一瞬のこと。
忘れられてしまうだろう。
昨日わたしがかんがえていたことへの回答だった。
○「うれしいこといつてくれる」
わたしは涙ぐんでいた。
○「けっして忘れないから」
○わたしたちは会話に没頭していた。
向こうから肥満女が急速接近してきた。
太っているのにすごく速く歩いている。
どんとカミサンにつきあたった。
なんの抵抗もなく通り過ぎていく。
カミサンが一瞬消えたようだった。
いや、あの女にはカミサンが目にいらなかったのだ。
他の人には、最近の彼女が見えない。
戦慄が背筋をはしった。
○「そんなことはないわ。よけたのよ。こんなふうに」
確かに、彼女がこんどはよこに飛び退るのがみえた。
○若さがなければだめ。
売れる見込みがなければ相手にされない。
これからなにを書けばいいのだ。
わたしは立ちどまっていた。
風が心地よい。
まだ生きている。
まだなにか書けるかもしれない。
彼女が消えるまでに、この一年で新作を発表したいものだ。
それには彼女とすごしたこの半世紀のことを書く。
それしかないだろう。
○五月風がふいている。
河川敷の新緑が風に揺れていた。
one bite,please. ひと噛みして!! おねがい。
↓
ああ、快感。
○もしかしたら幻覚なのかもしれない。
○もしかしたら錯覚なのかもしれない。
カミサンが若やいで見える。
……わたしの願望からくる幻覚なのかもしれない。
錯覚なのかもしれない。
○「あの一作だけで書くのは止めるの」
彼女のいう一作というのは「孫に引かれて文壇デビュー」のことだ。
麻耶の人気のおかげで出版された。
ほどほどに売れている。
いくらけしかけられても、干からびた頭には新たな作品のイメージが浮かばない。
○「それよりまた薔薇園に行きたいな」
「わたしに気をつかわなくていいから。ねえ、どうなの? 書いてみてよ」
さわやかな五月の薫風が黒川べりの遊歩道をふきぬけていく。
ひんやりとした風が頬に心地よい。
これから作品を書くとしたら、なにをどう書けばいいというのだ。
○不景気のため「巣ごもり消費」などとう言葉がテレビで話題になっていた。
かんがえてみると、わたしたちは「巣ごもり夫婦」だったのかもしれない。
○「そのことは思い出さないほうがいいわ」
カミサンに心を読まれている。
やはり錯覚なんかではない。
mimaはヤッパ麻耶がいったように、魔女なのかもしれない。
いや、魔女も、マインドバンパイアも同一の種族なのだろう。
○「そうよ」とカミサンはけろっとしていう。
「あなたのことはいつまでも忘れないから」別れてしまえば、長い彼女の歴史の中
でわたしとのことなどほんの一瞬のこと。
忘れられてしまうだろう。
昨日わたしがかんがえていたことへの回答だった。
○「うれしいこといつてくれる」
わたしは涙ぐんでいた。
○「けっして忘れないから」
○わたしたちは会話に没頭していた。
向こうから肥満女が急速接近してきた。
太っているのにすごく速く歩いている。
どんとカミサンにつきあたった。
なんの抵抗もなく通り過ぎていく。
カミサンが一瞬消えたようだった。
いや、あの女にはカミサンが目にいらなかったのだ。
他の人には、最近の彼女が見えない。
戦慄が背筋をはしった。
○「そんなことはないわ。よけたのよ。こんなふうに」
確かに、彼女がこんどはよこに飛び退るのがみえた。
○若さがなければだめ。
売れる見込みがなければ相手にされない。
これからなにを書けばいいのだ。
わたしは立ちどまっていた。
風が心地よい。
まだ生きている。
まだなにか書けるかもしれない。
彼女が消えるまでに、この一年で新作を発表したいものだ。
それには彼女とすごしたこの半世紀のことを書く。
それしかないだろう。
○五月風がふいている。
河川敷の新緑が風に揺れていた。
one bite,please. ひと噛みして!! おねがい。
↓
ああ、快感。