「初めに」 「金◯成をどう見るか」 黄 民基 ( ファン・ミンギ )
第一部 証言 「隠された真実」 北朝鮮人民軍作戦局長 兪 成哲 ( ユ ソンチョル )
第二部 手記 「暴かれた歴史」 元北朝鮮人民軍師団政治委員 呂 政 ( ヨ ジョン )
本日、黄氏の著書を読み終えました。書評を書く気になれないほど、気持ちが沈んでいます。「第一部 証言」を書いた兪氏は粛清されましたが、刑務所には入れられずソ連大使館を通じて亡命しています。しかし「第二部 手記」を書いた呂氏は、刑務所に10年間服役し、刑期を終え出所した時、決死の覚悟で中国へ脱走しています。
金○成が、兪氏、呂氏の二人の処遇に差をつけたのは、人民軍内での階級の差だったのか、認識した罪の大きさにあったのかよく分かりません。呂氏が入れられた刑務所には、元軍衛生部長、元国家計画委員会・計画局長、空軍師団長、元戦車学校長、元高射砲連隊長、元海軍司令部技術部長など、上級軍人ばかりです。
入所に際し、下位の軍人に査問され、肩章や胸の階級章を剥ぎ取られ、粗末な囚人服へ着替えさせられます。刑務官の中にはかっての部下もいますが、その彼らに乱暴な言葉で小突かれます。質問も許されず、収容者同士の会話も禁止され、狭い部屋に正座させられ、軍人の誇りというより、こうなると人間の尊厳さえ失わされます。
彼らの多くは、金○成のために戦ってきた軍人で、何の罪状で刑務所に来たのかと疑問さえ持っています。誰かの密告により、何かの罪を着せられているという点で彼らは共通しています。
こんな手記を、息子たちや「ねこ庭」を訪問される方々に伝える必要があるのだろうかと、気が滅入ります。書評をここで止めれば簡単なのですが、著者の黄氏も、兪氏も呂氏も、金○成の批判をしていても、朝鮮に対する愛、家族への愛、軍人の仲間、上司、部下への愛、朝鮮国民への愛を失っていません。
そこが単なる暴露本でないところで、心を捉えて離さないものがあり、私を迷わせます。たとえ事実であったとしても、あまりに残酷なことや、醜いことがたくさん書かれていると、誰でも読むのが嫌になります。シリーズが進むにつれ、「ねこ庭」を訪問される方々が減っていくのは、そのせいだろうと思っています。
しかし著者の黄氏も、兪氏も呂氏も、金○成個人への憎しみや恨みを超えた何かを、読者に訴えようとしています。個人的な怒りや憎悪を乗り越えた、懸命な主張を感じます。うまく伝えられるのかどうか自信はありませんが、そういう部分だけを取り出し、息子たちと「ねこ庭」を訪問される方々にお伝えしようと思います。
「第二部 手記」・・呂 政
「わが国は世界でも特有な、〈奇形国家だ。〉金○成は何を持って、個人崇拝を維持しているのか ? 」「それはまさしく密偵である。」
「これは我々が金○成を憎むゆえに、復讐心を抱いて下した不手際な定義ではない。わが国の二千万の人々が、それを認めている事実だ。全ての人々は、自分のそばに密偵がいることを知っているので、恐れながら用心する。」
「密偵自身もまたそうである。自分以外にまた密偵がいて、自分を監視していることを知っているので、怖気付いて心細くなる。社会安全省とは密偵の本省だが、その内部にも安全員を監視する密偵がいる。そういう仕組みを安全省員たちも知っているからこそ、用心する。」
呂氏はこのように説明しますが、共産党が支配する中国もそっくり似ています。崩壊前のソ連も、東ドイツも密告社会でした。人口の2割に当たる170万人を虐殺したと言われる、カンボジアのポル・ポト政権も疑心暗鬼の密告政府でした。
「10万平方キロメートルの国土に、二千万の人口しかいない国で、社会安全省という膨大な警察の力をおいても安心できず、〈国家政治保衛部〉という密偵組織を作った。この保衛部は、甚だしくは総理さえも干渉できず、ただひたすら金○成と金○日の隷属下にある。」
人間の猜疑心は、際限がありません。まして独裁的な政治権力者が、猜疑心の虜になると止まるところのない恐怖政治となります。北朝鮮に限らず、自由主義と言われる国にも形を変えた密偵制度があります。CIAや英国諜報部、フランスの秘密警察、日本で言えば戦前の特高など、国の安全のためにはこうした組織が不可欠です。
社会主義国と自由主義国の違いは、「節度」だろうと思います。「節度」はどこから生まれるかと言えば、それはやはりその国が持っている「言論の自由」の度合いです。維持することの難しさは、世界の国民が知っていて、皆が日常的に奮闘しています。
日本でも、この千葉の片隅の「ねこ庭」のブログでさえ、「言論の自由」と奮闘しています。それは単に私が反日左翼の人々と戦っているという意味でなく、これらの人々を批判攻撃している、自分自身の節度との戦いという意味を含んでいます。自責を忘れ、他人ばかりの批判をするのが社会主義国の特徴でないかと、そんなふうに思えてなりません。
「密偵に頼って統治される国家だから、監獄もまた例外でなかった。違う点もあるにはあった。」「北朝鮮の社会での密偵は、誰にもわからないようになっているが、ここではオープンにされた。つまりお互いが、告げ口をするようにさせられたのである。」
本日はここまでとし、次回はまた、考えながら別のテーマを紹介したいと思います。できることなら、あと一回で終わりたいと考えています。