氏が語っていない事実は、下記の4つです。
・昭和20年の、日本の敗戦 ・昭和23年8月の、大韓民国設立
・昭和23年9月の、北朝鮮独立 ・昭和25年から始まった、朝鮮戦争
これに前記の教育基本法と戸籍法を追加し、時系列に並べ、氏の叙述と照らし合わせますと、違った事実が見えてきます。
1. 昭和20年、日本の敗戦
2. 昭和22年、教育基本法制定
3. 昭和23年8月、大韓民国設立
4. 昭和23年9月、北朝鮮独立
5. 昭和25年、国籍法制定
6. 昭和25年、朝鮮戦争勃発
「教育基本法や国籍法による、植民地異民族の " 放出と排除 " により、」「いわゆる " 23・4・2 阪神教育闘争 " のきっかけが作られたのだ。」「この闘争は、GHQ占領下で唯一、司令部による非常事態宣言が発動されるに至っている。」
この説明を読みますと、日本政府の教育政策がきっかけとなり、在日朝鮮人が憤慨し、騒ぎを起こしたという文脈になります。「教育闘争」が発生した昭和23年が、どういう年だったか、前記の時系列で見ますと、 韓国と北朝鮮がそれぞれ独立国宣言をした時だったと、分かります。しかも国籍法は、「教育闘争」の2年後の制定です。
日本が敗戦となって以来、差別されていた在日朝鮮人たちが、共産党とともに武装蜂起し、火炎瓶闘争と呼ばれる、激しい暴力闘争を日本各地で起こしていました。争乱への在日朝鮮人の参加人数は、30万人だったとも言われ、治安に当たった多数の警官が負傷しました。各地で騒動を起こす彼らを、政府は治安維持のため、朝鮮へ戻そうと懸命になっていました。
騒乱防止のため、政府は、在日朝鮮人の中の過激分子の排除を決断しました。反日教育の拠点となる「朝鮮学校」を認めなくなり、貸与していた校舎の明け渡しも、当然要求します。帰化した在日朝鮮人や、共生している者について、日本の学校への入校を促すのは、当然の話でしょう。
つまり氏は時代の状況を正確に説明せず、日本政府が、一方的に在日朝鮮人を差別・排斥したかのように喋ります。平成10年の本の中で、東大助教授の氏が語れば、日本人の多くは信じただろうと思います。
氏の意見は144ページで終わりますが、言葉が難解に組み立てられ、いかに分かりにくく書かれているかを、参考までに紹介します。
「この問題は、戦後の教育改革と民主主義教育が、」「進歩主義と国民教育をタテに、ほとんど触れてこなかった課題であるる。」「この課題を正面に据えて、論じなければならない時がやってきたことだけは、」「誰の目にも明らかであろう。」
「教育の自由化という名の、傾斜的選抜の一層の加熱化と、」「心の教育という名の、国際化時代の新たなナショナリズムの教化が、」「気の抜けた魂と気の抜けた知性を、より一層空虚化していくことになることも、」「また明らかなように、私には思えてならない。」
日本の教育に関する氏の結論ですが、ここから何が見えるのでしょう。無責任な批評と、無意味な批判があるばかりで、前向きなものは皆無です。気の抜けた魂と気の抜けた知性とは、氏自身のことでないかと私には思えます。日本にいて、こんな意見を述べている限り、氏の精神世界は、より一層空虚なものになることでしょう。
氏が本当に、朝鮮という国と同胞を愛しているのなら、日本と朝鮮に対し、もっと別の方向から、語りかける勇気を持つことではないのでしょうか。
日本に対しては、自分たちも無意味な言いがかりや敵対行為を慎むから、感情的嫌悪と差別意識を捨てなさいと言い、韓国・北朝鮮に対しては、捏造の反日教育をやめるべしと、たったこれだけを言えばいいのです。
韓国・北朝鮮の政府が過激な反日教育をするから、穏やかに暮らしている在日コリアンの心が、引き裂かれるのです。朝鮮人であることを隠し、通名で暮らし、「透明な存在」となることを強制しているのは、日本でなく、彼らの祖国だということを、本音で語ってはどうなのでしょう。
文字の読めない朝鮮の庶民に、ハングルを普及させたのは日本でしたし、厳しい身分制度を廃止し、庶民を解放したのも日本でした。国民の多数を占めていた、奴隷と小作人に、土地を分配し、生活の手段を与えたのも日本でした。
こうして書くと、あれもこれもしてやったと、自慢らしく聞こえますが、私は苦々しくてなりません。欲しがってもいない、親切や思いやりなど、朝鮮人が喜ぶはずがありません。要するに、当時の日本がやったことは、ただひと言「過ぎたるは及ばざるがごとし。」でした。
王族と両斑がふんぞり返り、その下に、奴隷のように酷使される常人、と呼ばれる多数の朝鮮人がいても、知らぬ顔をしていれば良かったのです。不潔で、不衛生な暮らし振りだからと言って、道路を整備したり、家屋を整えたり、工場を造ったり、そんなことはする必要がありませんでした。
抑制していても、氏の発言の数々を読みますと、つい言葉が乱暴になってしまう私です。在日コリアンの心情は、暗く救いようのないものであると、岩波書店と6人の編者は、読者に伝えたかったのでしょうか。それにしては、実りのない姜尚中氏の教育論でした。