写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

妙な気遣い

2006年05月07日 | 生活・ニュース
 ピンポーン。妻が買い物に出かけた日の午後、静かな部屋でパソコンに向っていた時、インターホンが鳴った。

 傍らで寝ていた犬が跳び起き、玄関に向って大声で吠える。ボランティア仲間で、私よりやや若いM婦人が笑顔で立っていた。

 「お庭の満開になった花水木を見に来てくださいと言われましたので」と訪問の目的を言う。

 「家内は留守ですが、どうぞお茶でも飲みながら見てください。あっ、ドアは開けたままでいいですよ」と、玄関のドアを開けたまま居間へ案内した。

 あわててコーヒーを淹れ、窓越しに紅白の我が家自慢の花水木を眺めながら、まずは花談義をした。

 M婦人と、こうして1対1で話をするのは初めてのことである。ボランティア仲間のこと、趣味の話、孫のことと話はいくらでも続けることはできた。

 しかし、60を超えたとはいえ、誰もいない家の中でご婦人とふたりきりで面と向って座っているのは、どうも落ち着かない。

 コーヒーを飲み干したあと、空になったカップを2度も口に持っていった。ジョークも少し空回りする。妻の帰りが待ちどうしく、開けてある玄関に何度も目をやる。

 30分も経ったろうか。「ただいまぁ。どうしてドアを開けてるの?」。荷物を手にした妻が大きな声を出して帰ってきた。
(写真は、満開となった「紅白花水木」 2006.6.4毎日新聞「男の気持ち」掲載)