写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

蓑ひとつダニ

2006年05月04日 | 車・ペット
 「おーい、大変だ。またできているぞ」。朝食を終えたハートリーの顔を見て驚いて叫んだ。

 その半年前、下唇の横に米粒大の赤いできものが出来た。1ヶ月も経ったころ、小豆大になり出血したため、病院へ連れて行った。

 その日のうちに除去手術をし、組織検査もした。良性の腫瘍であったため、大事に至らず元気にすごしていた。 

 先日の夜、毛の伸びたハートリーの顔をなでている時に、はっとした。前回と同じ辺りに、また米粒大の灰色をしたできものが出来ていた。

 恐る恐る触ってみると、ふにゃふにゃしていて気味が悪い。

 翌朝、起きてすぐに見た。何ということか、もう大豆くらいの大きさになっている。どす黒くて、前のものとは少し様子が違ってみえた。

 あわてて病院へ向った。20分後、いつも行く病院に着いた。ところが玄関のドアーに「本日休診」と札が下がっている。その日は祝日であった。

 病院の前でハートリーのできものに目をやった。「ううん…何?」できものが見えない。消えてしまっている。

 猿の毛づくろいのようにして、両手で口の周りをいくら探してみても見つからない。

 魔法にかけられたような気持ちで、休日の病院をあとにした。病院へ連れて行った理由そのものがなくなっていた。

 家に帰り、もう1度丁寧に調べてみたがやはり何ごともない。ハートリーも元気そのものだ。

 車の中に置いていた物を取りに行った。と、その時、助手席に大豆大の真ん丸い灰色の物体が転がっているのを見つけた。

 部屋に持ち帰って、虫眼鏡を取り出して観察をした。何なのかよく分からない。少し時間が経って見ると、それが動き始めている。

 もう1度良く見た。足が出て歩いている。触ると、丸いボールのようになる。
 
 それがダニであるということを、あとから人に教えられて分かった。はじめは小さいが、生き血を吸って大きくなり、これ以上吸えなくなるとポロリと落ちるらしい。

 そう言えば、その数日前に、ハートリーを山歩きに連れて行ったことを思い出した。あんなに喜んでいたが、連れて行くことはもう止めたほうが良いのか。
 
「七重八重 山はあれども ハートリーと 山歩きのひとつダニ なきぞ悲しき」
   (写真は、ハートリーにまつわりついた「山のダニ」)