写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

待て貝

2006年05月05日 | 食事・食べ物・飲み物
 何十年ぶりに本当に珍しいものを見た、食べた。「待て貝」という貝である。 

 貝図鑑によると、「瀬戸内海や三河湾、東京湾と大きな内湾の干潟や浅い泥の海に棲息している。干潟の泥に垂直にもぐっていて、穴が開いており、この穴に食塩を入れると、す~っと突き上がってくる。これをすかさず手で掴む」とある。

 知人が、近くの海に潮干狩りに行き、たくさん獲ったもののおすそ分けとして頂いた。 

 子どものころ、父母と貝堀りに行き、この待て貝を遊び半分で獲っていたことを思い出した。

 その頃は、待て貝の生息している小さな穴を見つけ、手鍬で20~30cm掘って捕まえていたが、逃げられることもあった。

 「待て待て」と言いながら掘っていくので「待て貝」というのだと、教えられていた。

 最近の獲り方は、棲み穴に塩を入れる。あまりの辛さに地上で何ごとが起きたのかと思った貝が、様子を見に穴から出てきたところを捕まえるのだという。

 私の子ども時代とは違って、頭脳的な獲り方になっている。なかなか面白そうなやり方だが、だまして獲るというところが少し後ろめたい。

 食べ方は、焼く、煮る、茹でるなどいろいろあるようだが、もらった人の勧めで茹でたものを酢味噌で頂くことにした。

 茹でて殻をはぐと、アサリと同じように薄いベージュ色をしている。長さは10cmくらいある。斜めに4等分して切った。

 口に入れると、磯の香りが他のどの貝よりも強く感じられる。こりこりしていて歯ごたえもいい。

 食べながら、半世紀以上前に、家族で囲んだ小さな食卓の上の待て貝を懐かしく思い出した。本当に久しぶりの「待て貝」を、おいしく頂いた。

 しかし毎日これを食べるとなると、「マタカイ」と言いたくなること「マテガイ」ない。
    (写真は、塩にだまされ御用となった「待て貝」)