そこそこの放送作家・堀田延が、そこそこ真面目に、そこそこ冗談を交えつつ、そこそこの頻度で記す、そこそこのブログ。
人生そこそこでいいじゃない





アカデミー作品賞は逃した「スピルバーグの自伝的作品」。
いったいどんなものなのか、二子玉の映画館で観てきた。
その感想。

これは星2つ半。★★1/2
素晴らしいと思う人も多いだろうし、期待外れに思う人も多いであろう映画。
「スピルバーグの自伝的作品」という宣伝文句にどんな映画をイメージして観に行くかで評価は変わる。
僕の場合は、前半ニヤニヤして観ていたのだが、中盤から「あ、そっちですか」となり、最後はまたニヤニヤで終わるという不思議な時間だった。
あらゆる感情で構成された変わった映画なので、若干、散漫でとっ散らかっているイメージもある。
なので、星2つ半。
ただ、スピルバーグがこの映画でやったことはある意味ですさまじくて、恐ろしい。
以下、ネタバレで詳しくその辺の理由を述べる。







これ、「映画の映画」である。
で、世の中の「映画の映画」は、大抵「映画っていいもんですねー」と淀川長治みたいなことを言って終わるのだ。
「ニュー・シネマ・パラダイス」なんかはその代表だろう。
最近だと「バビロン」もそんなエンディングでまとめていた。
そこで、「スピルバーグの自伝的作品」と宣伝されたら、観客の多くは「映画っていいもんですねー」を当然のように期待するんだと思う。
僕もそれを期待して観に行ったのさ。
そうしたら、この映画、それとまるで真逆の方向に振ってくるのだ。
なんと「映画ってこんなに酷い面があるんですよー」の、映画製作者が映画によって呪われる映画なのだ。
この、映画に呪われるというストーリーを、きっちり受け止められるかどうかで、この映画の評価は変わってくるのだろう。

僕は実はこれ「スピルバーグの自伝的映画」どころではなく、ガチの「スピルバーグの自伝」だと思う。
スティーブン・スピルバーグは長い映画人生で、「映画っていいもんですねー」なんてコトは実は感じていないのだ(恐ろしいことに)。
そして、そんな実感がこもっているから、そんな実体験をしてきているからこそ、こんな意表を突くリアルな脚本が書けたんだし、ストーリーが描けたんだと思う。
何しろ、本物のスピルバーグ家と同じ状況で物語は始まる。
父は理系の技術者、母は芸術系のピアニスト。
この2人の板挟みで子供時代を送ったスピルバーグ。
母に似て芸術系だったスピルバーグ、父に似てオタクだったスピルバーグは、両親の離婚と別離を経験し、その後の映画では不仲な夫婦とか、父の不在とか、不倫に走る母とかを、そういうモチーフをたくさん描いてきた。
この映画の中で、主人公の少年が撮る映画は、人と人を引き裂き、人の本性を図らずも映し出し、意図した編集によってあることをないことに、ないことをあることに、醜いものをより醜く、ときには醜いものを美しく演出していく。
映画が人を傷つけ、また勇気づけ、でも全てはカメラに切り取られ、編集された虚構であり、映画によって世界を切り取った結果、映画が世界を壊すという罪深さ。
そんな映画が持つ悪魔的な側面に、この映画はずっと焦点を当てていく。
こんなの、実際に監督をして、映画作りの本質として感じていなければ描けないものだと思う。
頭の中で考えた「映画の映画」は「映画っていいもんですねー」の結末になって感動を呼ぶだけだが、この「フェイブルマンズ」は「映画の映画」として映画の闇を映し出す。
だから映画の中盤、僕は「あ、そっちですか」となった。
期待外れの人が多いのもだからだろうと思う。
でも、世界一の映画人、スピルバーグが描いた自伝は、「映画ってこんな酷い面もあるんですよー」だったのだ。
それだけで、いたく感慨深い。

とはいえ、少々とっ散らかっている。
「フェイブルマンズ」というタイトルが現すように、これはユダヤ系の家族フェイブルマン家の物語だ。
家族の崩壊を、サムという映画の天才である長男が、客観的に見つめていくのがストーリーの骨子だ。
「スピルバーグの自伝的映画」ではぜんぜんない。
宣伝が間違っていると思う。
「映画の恐ろしさを描いたスピルバーグの伝記」と宣伝されれば、また違っただろうに。

なお、最後の10分ぐらいに、映画ファンなら大喜びするサプライズが待っている。
スピルバーグの語り草である「若いとき、名匠ジョン・フォード監督にどやしつけられた」という実際のエピソードをそのまんまオマケとして用意してくれている。
「駅馬車」とか「怒りの葡萄」「捜索者」などで知られ、アカデミー賞を何度も獲っている巨匠ジョン・フォード監督(年老いた頃は片目に眼帯をしていた)を演じているのは、なんと、デビッド・リンチ監督だ。
で、デビッド・リンチが登場するやいなや、映画はスピルバーグのものではなくなり、リンチの磁場に侵食されてしまって急に不条理な編集と間の取り方になるのも最高。
若きスピルバーグはジョン・フォードになんと言われたのか?
そしてその言われたことを使った最高のラストカットとは?
この映画、最後のワンカットで、鬱展開の中盤のストーリーを全てひっくり返し、観客をニンマリさせてくれる。
あのラストカットに、僕はスピルバーグの、映画に対する矜持の全てがあるような気がする。

あと、主人公役の青年。
スピルバーグに顔があまりにそっくりだろ。
あれはすごい。

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