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リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ガット弦に思う(3)

2020年06月01日 21時37分05秒 | 音楽系
ガット弦の選定で難しいのはバロックだと6コース以下のバス弦です。当時は全てガット弦だったからガット弦を張ればいいのだ、という単純・素朴な話ではありません。仮にプレーンガット弦を弦長71cmのバロック・リュートの6コース以下13コースまで順に張っていくと、13コース(バスライダー75.5cm)はかなり張力を押さえても(2.35kg)直径1.9mmになります。

見た目にも異様に太い弦になりますし、この弦長でこの太さだと両端がうまく振動せず楽音として使えません。ドイツ・テオルボの13コース96cmだと、2.35kgで直径約1.5mmです。これでもまだ太くてうまく鳴らないと思います。ちなみにCD弦(イタリアのアキラ社のバス用合成樹脂弦)だと、プレーンガットだと1.9mmに相当する弦の実測直径は1.03mmです。この太さだとちゃんと弦として使えます。

ちなみに13コースのコントラAで直径1mm程度にするには、どのくらいの弦長が必要かを計算してみますと、約150cmになります。これってイタリアンのテオルボのバス弦の長さですよね。当時のイタリアのリュート奏者達は、プレーン弦のバス弦がちゃんと鳴る長さとして150cmを製作家に要求したわけです。別の言い方をするとそれ以下では上手くバス弦が上手く振動せず音楽的でない、と判断したわけです。

直径1.9mmのプレーンガット弦でコントラAという低い音を鳴らすには、75cmの弦長では全然だめでその倍はいるというのが当時のリュート奏者あるいは聴衆の感性ということです。まぁ、ある意味常識的な判断でしょう。

バス弦が160cmのテオルボはとてもハンドリングが大変で(そもそも調弦のときにペグに全く手が届きません)、当時の奏者としてもできればもっと短い方がいいなぁと思っていたでしょうけど、彼らはハンドリングの難儀さより音を優先したということです。