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『狂人日記』(読書メモ)

色川武大『狂人日記』講談社文芸文庫

他者と一体になりきれない、人間の自己中心性を強烈な形で描いている。ひさしぶりに骨太の小説に出会った。

主人公は幻聴、幻影に悩まされる50歳の男。病院に入院していたが、そこで出会った圭子に誘われて二人で生活をするようになる。彼女と一体になりたくて、なりきれない男はつぎのようにつぶやく。

「自分は、自分だけの世界にこだわるまい。いや、密室をぶらさげて歩いていればよい。」

「自分は、両親も、弟妹も、園子も圭子も、誰をも、本当に知らずに、また彼等にも知らせずに、ぽつんと生きてきた。それが、憎い。」

やがて、健常者に戻っていく圭子に捨てられ、孤独の中で生と向き合うラストシーンは圧巻である。

はじめは精神障害という特殊な状況に目がいきがちだったが、よく考えると我々も「自分だけの密室」を持っている。それぞれ違う世界観を持った者同士は、完全に分かりあえることはない。深いテーマだな、と思った。
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