goo

『だめだこりゃ』(読書メモ)

いかりや長介『だめだこりゃ』新潮文庫

小学校の頃、「8時だよ!全員集合」が楽しみだった。

長さんの自伝を読んで感じたことは、偶然性戦略性の融合。もともとバンドのベーシストだった長さんがギャグをやりはじめたのは、進駐軍の将校から「もっと笑え」といわれたことがきっかけだという。話が苦手なため、コミカルな動きで笑いをとるようになる。

メンバーがごっそりと抜けた後、15日間でかき集めたのが、あの黄金のメンバー(荒井注、高木ブー、仲本工事、加藤茶)。彼らは、偶然集まったのだ。

ただし、長さんはとても戦略家である。まず、テレビの怖さに気づいていた。何度も同じネタをやると飽きられて、消えてしまう運命にある。そこで、考えたのが、メンバーの位置関係。長さんは次のように語っている。

「私という強い「権力者」がいて、残りの四人が弱者で、私に対してそれぞれ不満を持っている、という人間関係での笑いだ。嫌われ者の私、反抗的な荒井、私に怒られまいとピリピリする加藤、ボーっとしている高木、何を考えているんだかワカンナイ仲本。メンバー五人のこの位置関係を作り上げたら、あとのネタ作りは楽になった。」

サザエさんも、水戸黄門も、ドラえもんも、位置関係ができあがっているがゆえに、いろいろなパターンが可能となり、飽きられることがない。ドリフも同じである。

実は、ドリフはアドリブが苦手だったらしい。だから、ネタを作り上げ、練習を重ねて、本番にのぞむ。毎回生放送だから、その緊張感はハンパではない。それは長さんの次の言葉に現われている。

「作家の書いてくる本、ディレクターのつける演出は、それぞれよく考えられてはいたが、やはり「頭で」考えられたものにすぎない場合が多く、そのまま客の前にかけられるものではなかった。だからどうしても、一度分解し、再構築する作業が必要になったのだ。我々、演じ手は失敗すると次の日から街を歩けなくなる恐怖が常にあった。」

ギャグをやりはじめたのは偶然だったけれど、そのチャンスを生かし、戦略的に考えに考え抜き、恐怖と闘っているうち、気づいたら国民的人気者になっていた長さん。その真剣な生き方に凄味を感じた。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )