柳蔭書翰

徒然なるままに、音楽関連の話題に拘らず、常ならんこの世の事々書き散らし諸兄のお耳汚しに供したく思います。

感化

2014-05-06 09:00:04 | Weblog
渡辺淳一死亡記事です。どの新聞もキャリアを紹介するにデビュー作と直木賞作品、その後は「エロ作品」ばかりです。もちろん失楽園で有名になった人ですからそれでよいのです、官能路線(なんて書くと大反論を喰らいますか、川上宗薫や団鬼六に失礼ですかそれとも)に転向してからは全く読んでませんから私にとやかく言う資格も評論拠所もないのですが、医者になる前、医学生の頃にせっせと読んだことを思い出すわけです。最近に鈍感力との本を出してますね。昔からの箴言、知らぬが仏を再び説く内容ですが、元医者の感覚はまだ生きているというわけでしたか。医学(医療、治療)の不十分さ、それは日常全ての事ごとの非科学性と敷衍できることですが、知らぬが仏なのです。こんなもんかと投げやることが正しい処置なのです。治る(成る)ものは治る(成る)しそうでないものは治ら(成ら)ない、そう諦めることを鈍感力と命名したことでしたがこれはきっと医者独特の諦観です。札幌医大の整形外科医で講師まで行って、日本初の母校での心臓移植を批判する小説をものして辞めて、という格好良さも手伝って、よく読んだものです。無影灯(燈)、ダブルハート等の医学モノです。面白かったですね。ブラックジャックに並ぶ医学モノの必読書的位置じゃなかったんでしょうか当時の。医者あがりというか崩れと言うか、の作家は他にいますね、有名なところでは北杜夫、なだいなだ、バチスタ手術を書いた海堂某もそうなんでしょう?ノンフィクションでもなく、でも専門用語や医学の匂いをプンプンさせてのこの人の小説には魅入られたものです。医者になろうとする若い頃です。胸膨らませてた頃です、こういう本の読んでカッコええなぁと憧れてた頃です。本の内容は記憶にかすんでますが、あの頃の思い、そっちの方が懐かしいことです。医者になって30年が過ぎて、渡辺淳一がこれらをものした年齢をとうに過ぎて、経験も重ねて、医学の嘘、虚構も多く知り、臨床の場での嘘ごまかしも当然の処世として身につけてきて、体中に溜まり積もっている澱を顧みれば今更清く正しくもないぜと嘯くしかないのですが、あの頃は立派な医者になりたかった、そういう希望は単純に抱いてたなと思い出すことです。その結果がこの為体ではありますが、今の医学生たちは、医者になりたいと思ってる中高生達はどんな本で刺激を受けてるんしょうか。インスパイアーされてるんでしょうか。ふとそう興味を感じたことでした。人生の一時期に影響を与えてくれた作家に、合掌。
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