ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

Love for Wine

2014-04-01 18:13:45 | ワイン&酒
4月1日、社会では新しい年度のはじまりです。桜も菜の花も満開でした。
エイプリル・フール、でもありますが(笑)



さてさて、日本に在住する唯一の“マスター・オブ・ワイン” (MW、世界的なワインの資格の最高峰)である ネッド・グッドウィン氏 が発表した論文が、ワイン業界で波紋を広げつつあります。

1969年にロンドンで生まれたネッド氏はオーストラリアで育ち、10代の時に交換留学生として日本を訪れた経験を持っています。成人し、ワインの仕事に携わるようになり、レストラングループの仕事で日本に滞在する間にMWを取得(2010年)。

日本にいるただ一人のMWとして活躍していたネッド氏でしたが、この度、日本を離れ、故郷のオーストラリアに戻ることになり、その際に日本のワイン業界に関する論文を発表しました。
そのタイトルは、Why Japan has lost its MW (なぜ日本がMWを失ったのか?)

よく書いた!と称賛する人、なるほど~、と思う人もいれば、ちょっと過激では?という人もあり、反応はさまざまですが、海外の意見は支持派が優勢のようです。

 ※原文 → http://www.jancisrobinson.com/articles/a201403203.html

ネッド氏が指摘したポイントをザッと挙げてみると、

・ワインに関する多くの事柄が、日本では気づかれなかったり無視されたりしている
・緻密で細部にまでこだわるサービスが行き過ぎると、ワインの本質を見失うことがある
・ワインは自分を飾り立てるものであり、エリート主義、自己満足、肩書ばかりのソムリエが多い
・名の知られた高価なワインのみを信奉し、本当においしい魅力的なワインを知らない、勧めない

などなど

ズバリ切り込み、潔い!と思いましたが、気配りのフォローも書かれています。
でも、ネッド氏は日本を捨て、オーストラリアに帰ってしまいました。

不思議なことに、MWを取得したネッド氏に、日本の企業からの仕事の依頼は非常に少なく、海外からの依頼の方が多かったそうです。活躍する場がなかったのは、もったいないことでしたね。
肩書のある人を看板として使うことは簡単です。でも、実力を持つ人物には、本当の意味でしっかり働いてもらえる場を用意したいもの(ネッド氏に限らず)。うまく働いてもらえないまま去られてしまったのは、やっぱり損失。でも、プツンと愛想が尽きちゃったんでしょうね。



さて、日本のワイン業界は、これからどうなっていくでしょう?

日本人は勉強熱心で、知的好奇心が旺盛ですが、頭でっかちになりがちです。
味わい、おいしさよりもスペック重視で、高いワイン、有名なワインを持っている人が称賛されます。ワイン会でもそうしたワインを持参する人に注目が集まります。逆に、たとえ現地のトレンド最先端の品種や産地、つくり手のワインだったとしても、日本では無名だったり、価格がそれほど高くなかったりすると肩身が狭い思いをすることも。つまり、権威主義。

そういえば、ワインに愛情を持って接している熱心な若い人の店を私が紹介しようとした際、「そんな店は論外。有名ショップやグランメゾンのレストランで修行している人ならいいけど」と言われたことがありましたねぇ…。
経験はもちろん大事ですが、グランメゾンである必要ってあるでしょうか?例えば皿洗いのアルバイトでも、グランメゾンでの修行経験あり、としても間違いではないですが(笑)

ともかくも、ネッド氏の論文と行動は、日本のワイン業界に一石を投じたことは間違いありません。

私もこの機に、食事がおいしくなるのはもちろん、楽しくなる、笑顔になる、心豊かにしてくれるワインという素敵な存在のことを、改めて考えてみようと思いました。


コメント
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