暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

正午の茶事 舞秋風 (3)

2010年11月23日 | 茶事
懐石は佐藤愛真さんに初めてお願いしました。
事前に二回ほどお会いしてコミュニケーションを深め、
いろいろ助けて頂きました。
その一つが懐石道具です。

我家ではお客さまは最大五名と決めていますので
懐石道具が五組しかありません(今回は八名のお客さま)。
それで、足りないものをお借りしました。
向付、煮物碗、箸洗など8個揃っていませんが
仲良く相談しながら用意できて良かったです。

                
                               
要望をお伝えして、後は佐藤さんに献立を含め一任しました。
でも、今書き出してみると、たくさん要望したみたいです・・・。

一.お祝いの献立にする
一.「利休七則」の基本を大事にしたいので、懐石も贅沢ではなく
  シンプルにシュンのものを差し上げたい
一,あたたかいものはあたたかく差し上げたい
  (特に最初の一文字と汁)
一.焼物のあと、もう一品(預鉢)お出しする
一.長屋門名物の銀杏を使う
一.懐石は亭主相伴を含めて1時間15分で終了したい

次のような献立で懐石をお出ししました。

  汁    白味噌 辛子 結び干瓢 小豆 
  向附   鯛の昆布〆 寿海苔 菊 山葵
          つぼつぼ 紅白なます
  煮物椀  銀杏すり流し 聖護院蕪 車海老 粟麩 京人参短冊 芽蕪 
  焼物   若狭ぐじとマツタケの焙烙焼
  預鉢   海老芋 菊菜 鴨の丸 焚き合わせ 針柚子 
  箸洗   神馬草 梅香 仕立て
  八寸   サーモン手毬寿司  揚げ銀杏松葉刺し
  香の物  沢庵 水菜千枚漬巻 小茄子

                

お酒は京都北山・浜田酒造の「六友(りくゆう)」です。
中国・唐時代の詩人・白楽天は
「人生に六つの友あり、
 いわく琴(音楽)、詩(文学)、酒、雪月花」
と詠っており、これに因んで「六友」と名付けられました。

私はお酒が苦手でして、佐藤さんに教えて頂きました。
お味は如何だったでしょうか? 少し甘口かしら?
八寸は二種盛りでしましたので
何処からか「酒の修行が足りないのでは・・」という厳しい(?)声が・・・。

懐石はどれも温かく美味しく召し上がって頂けたようで嬉しいです。
特に焙烙焼は暖かい湯気といい、香りといい歓声が上がりました。

                

懐石が終り、主菓子を食べて頂き、中立をお願いしました。
先生をお迎えしているので
「どうぞ お鳴り物でお知らせください」
というお言葉にかかわらず
銅鑼を1点打ち残し、迎え付けへ出ることに決めていました。

       
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正午の茶事 舞秋風 (2)

2010年11月22日 | 茶事
11月14日(日)は小春日和で暖かでした。
朝、長屋門に着くと囲炉裏には赤々と炭が熾っていました。

この火で炉の下火や火入の炭も熾します。
早速、手分けして水屋の準備をしながら、火入の灰を温めました。
長い間使われていなかったので炉へも火を入れて炉灰をあたためます。
古い大きな鉄瓶に湧水(弘法の清水)を入れ自在へ掛けました。

待合の囲炉裏ばたに11時の集合ですが、
10時半にお客さまを迎えられるよう準備を急ぎました。
火入の灰を整え、鉄瓶の湯が沸いた頃に
最初のお客さまがいらっしゃいました。
半東のHさんがにこやかにご案内している様子です。

お客さま全員がお集まりになり、
半東が鉄瓶から白湯を汲んで差し上げました。
水屋ではYさんが炉へ下火を入れ、濡れ釜の準備です。

               

                              

私はといえば初炭の用意をしてから、ご挨拶の言葉を考えていました。
この1年間に起こったこと・・・
有楽茶会、準教授を引次して頂いたこと、夏期講習会への日々など
いろいろな思いが去来して、水屋でつい涙ぐんでいました。

Iさまの打つ、板木の音が高らかに響きました
今日のために整えてくださった蹲を使って、迎え付けです。
席入の後、お客さまお一人ずつと茶縁を感謝しながら
挨拶を交わしました。

・・・ですが、先生とお客さまをお迎えする緊張感と、
皆様を無事にお迎えできた喜びが交錯して
何を申し上げたか、ほとんど覚えておりません・・・。

待合の掛物は「紅葉舞秋風」です。
矢野一甫和尚の画賛で、先生から頂戴したお軸を掛けさせて頂きました。
汲出しは江戸時代の古伊万里の染付、長屋門の常什です。
床には、前回と同じ「四国八十八ヶ所巡拝御宝印譜」のお軸を掛けました。
荒壁の床にぴたりと決まり、いつも弘法大師さまに
背中を押して頂くような気がする、力強いお軸です。

               
               

初炭点前で炭を置きました。
釜は和田美之助造の真形 霰唐松です。
炉縁は、長屋門の琉球畳の広間にぴったりと思い、黒柿です。
「さらさらと見事な湿し灰でございますね。
 ご丹精のほどがしのばれます。
 今年の夏につくられましたか?」

「今年の夏は夏期講習会のために体力温存してまして、
 10月になってから作ったものでございます(汗)」

香合は小振りの赤絵宝珠、京焼の岡本為治の作で、
先生の茶友のSさまと一緒に探し求めたものです
香は鳩居堂の黒方(くろぼう)、次客のSさまに頂戴したものでした。

初炭が終り、粗飯(懐石)を差し上げました。

                       
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正午の茶事 舞秋風 (1)

2010年11月16日 | 茶事
紅葉秋風に舞う霜月十四日、長屋門公園で正午の茶事をしました。

長屋門公園での茶事は平成二十年二月十七日以来のことで、
三年に近い月日が過ぎていました。
その時の茶事は
「大好きな長屋門の古民家でお客さまをおもてなししたい・・・」
というものでしたが、
私にとって茶事の原点とも言える、貴重な経験をさせて頂きました。
(詳しくは「長屋門公園・正午の茶事」をお読みください)

しかし、母屋の座敷は茶室として作られていないので、
水屋がないこと、台所が遠く人手がいること、
炉、水屋、道具などの準備が大変なこともあり、
長屋門での茶事はその時が最初で最後・・・と思っていたのです。

               

日頃お世話になっている先生や茶友をお招きする御礼の茶事を
もう一度、私の茶事の原点である長屋門公園でしたい・・・
と考えるようになったのは、五月のことでした。

早速、事務局長の清水靖枝さんに相談すると快諾してくださり、
11月14日に決まりました。

有楽茶会でお手伝いしてくださったHさんとYさんが
半東と水屋を快く引き受けてくださり、
お二人には最初から最後まで惜しみないご協力を頂きました。
懐石はこの度新たにご縁があって、茶友Mさんのご紹介で
懐石料理教室を主宰している佐藤愛真さんにお願いしました。

お客さまとスタッフが決まりましたので、
茶事のことは考えないようにして
八月末の夏期講習会へ専念することにしました。

                

大事なお客さまをどのようにお迎えしようかしら?
茶事の一番難しいところであり、一番楽しいところでもあります。
何故か、ブータン旅行中に骨格のようなものが決まっていました。

最初の長屋門公園での茶事テーマは「遍路」でした。
退職後にお茶を再開した時期と、四国遍路を始めた時期が重なっていましたし、
私にとってお茶と遍路が共に必要でした。
三年間、春に四国遍路を続けたのは心の中に余計なものが溜まってきて
それらを取り除きたくなるからでした・・・。

茶事も同じでして、茶事を重ねて余裕が出てくると
余計なものをどんどん足していきたくなります。
道具も身の丈に合っているのに、自分も道具も背伸びしたくなったりします。

このへんで「利休七則」の基本に立ちかえってみよう、
どうしたら「素」の茶事ができるか、
引き算の茶事しよう・・・と、ブータンを旅しながら思いました。


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       写真は上から、「長屋門公園の母屋」
                 「古民家の見取り図」
                 「菊花展 長屋門公園にて」
     






花は野にあるように

2010年11月12日 | 茶道楽
利休七則を書き出してみました。

茶は服のよきように点て/炭は湯の湧くように置き/
花は野にあるように/刻限は早めに/降らずとも雨の用意/
相客に心せよ

「あれっ! 一つ抜けている・・・なんだったかしら?」
なかなか思い出せません・・・(ど、どうしよう!)。

              

早めにギブアップして調べてみると
「夏は涼しく冬あたたかに」でした。

   茶は服のよきように点て
   炭は湯の湧くように置き
   花は野にあるように
   夏は涼しく冬あたたかに
   刻限は早めに
   降らずとも雨の用意
   相客に心せよ

しみじみとすてきなお言葉です。
どれも含蓄のある教えですが、茶事が目前に迫っている今、
「花は野にあるように」が難しく、心定まっていません。

炉開きのこの時期、椿を使いたいと思いました。
昨年、春草廬で行った有楽茶会の時は
早々に野の花を扱っている花屋さんから
白とピンクの二種の椿を調達しました。

先日のお祝いの茶会準備の折、そのことを先生に申し上げたら
「そうですか? でも、それも大切な準備なので
 時間をかけて探すことにします」・・・と。

清楚なピンクの西王母が一輪、
茶会の濃茶席の床に生けられていました。

先生の真摯な姿勢に触発され、また
「花は野にあるように・・・」
の言葉に押されて、家から一里(四キロ)四方を歩きまわり
椿を探しました。

郊外にある我家の周りには緑が多く、
「椿マップを作ろうかしら?」
と思うほど数も種類も多いのですが どこへ行っても
蕾はまだ固く、とても使えそうにありません。

それでもあきらめきれず、いつもと違う処を意識して歩いていたら、
思いがけない場所でピンクと赤の椿を見つけました。
ピンクは西王母、赤は岩根絞に似ています。
これで一安心です。
でも、白い椿は残念ながら見つかっていません。

              

「花は野にあるように」
・・・花入に入れる姿、形ではないように思われました。
野にあるように・・・
野にあるシアワセ・・・
花を野に追い求める亭主の心になってみると
いろいろ思うことばかりでした。。

                         




お祝いの茶会 (2)

2010年11月10日 | 茶会・香席
傘寿、喜寿、古希を祝う茶会の最終席が終わりました。

社中一同が薄茶席へ集合です。
干菓子(銀杏せんべい・松葉・まつぼっくり)と薄茶を差し上げました。
薄茶は小山園の松柏です。

一献と昼食の点心を頂いてから、全員で濃茶席へ席入りしました。
今日の濃茶席は珍しく、S先輩が席主、N先生が濃茶点前ということで
S先輩よりご挨拶がありました。

「皆さまのお蔭で、思いがけなく傘寿、喜寿、古希を祝う茶会を
 開催することが出来まして 感無量でございます。
 私が申すのもおこまがましいことでございますが、
 どうぞ皆さまもお元気で、お茶を続けながら八十歳(傘寿)を
 迎えてください・・・有難うございました」

「八十歳までお茶を続けられるだろうか?」
と内心思いながらも
いつも前向きな先生とS先輩の姿勢に深く感じるものがありました。

                 

菓子は常盤まんじゅう。
緑の餡がきれいで、すっきりした甘さです。
先生のお点前で美味しく練られた濃茶を頂き、感激しました。
濃茶を頂いてから、先生のご挨拶がありました。

淡々斎、鵬雲斎、坐忘斎
三代のお家元の元で裏千家茶道に携わっていらしたので、
今回の茶会には三代に因む、お心入れの茶道具を使われたそうです。
新参者にはどれも初めて拝見する、素晴らしいものばかりでしたが、
待合に並べられた箱書を読むゆとりが無かったので
詳しくご紹介できず残念です。

・・が、金華山のような瀬戸茶入は、すっきりとした形、
釉薬の黄褐色、牙蓋のあめ色が何ともいえない趣きでした。
私の一番のお気に入りとなりそうです。
後日、先生から衣装持ちで仕覆が三つあると伺いました。
その日の仕覆は渋い黄土色の遠州緞子でした。

茶杓は、今日のお祝いの茶会のために削られたという、
先生の先生の業躰先生のお作で「明歴々」でした。
茶杓を拝見しながら、
先生が歩んで来られた長い道のりを思い、
業躰先生のお心遣いに心温まるものを感じました。
                          
改めまして、三人の先生方へ
「おめでとうございます!
 益々お元気でお茶を楽しまれますよう祈っております。
 どうか、これからもご指導のほど、宜しくお願いいたします」

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     写真は、「三渓園の錦秋」(三渓園提供)
           「鶴香合 布志名焼 (薄茶席)」