暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

雨の藤田美術館  田村文琳

2013年06月16日 | 美術館・博物館
                     雨の藤田美術館の窓から

6月15日、京都では久しぶりの本格的な雨です。
雨乞い(龍のレイアウト)のおかげかしら?

大槻能楽堂の道成寺フェスティバルの前に藤田美術館を訪ねました。
平成25年春季展「茶道具いろは」の終了(6月16日)が迫っていました。

前回、訪れたときは大雨で、ほとんど参観者が居ない中で
国宝・窯変天目茶碗を独り占めにしたことを思い出しながら・・・
今回も嬉しい雨になりました。      

            

お目当ては「田村文琳」(宋~明時代、13~15世紀、名物)、
小振りで姿が美しく、褐色と黄褐色の釉薬の混じり合いが好ましい、
お気に入りの茶入です。

稽古で伝来を尋ねられると、
「田村左京太夫所持の田村文琳でございます」
とか
「田村家伝来の田村文琳でございます」と言っていますが、
藤田伝三郎(香雪)が所持する前の持ち主は馬越恭平(化生)だったことも
この茶入に惹かれている理由の一つでした。
伝来は、田村左京太夫-竹中丹後守重門-松平上野介-河村伝衛
-馬越恭平-藤田家-藤田美術館 

               

ガラス越しですが、「田村文琳」と再会しました。
今回の展示では、挽家、箱、付属品(仕覆4、牙蓋2、盆、軸2本)、
付属品を入れる箱などが全て展示され、
「田村文琳」を所有してきた人たちの深い思い入れを感じます。

盆は、堆朱孔雀彫丸型盆(張成作)、
軸(添幅)2本は、小堀遠州書状と舟越伊予守永景書状です。

藤田家では、茶入と付属品すべてを収蔵する大箱を新たに誂えたとか。
それは黒漆塗、金色の面取り部分に藤と鳥の蒔絵があるもので、
その大きさと大箱にも袋が付いているのにびっくり。

「田村文琳」の仕覆は四つ、花色輪違宗薫緞子、萌黄地菱龍細川緞子、
日野間道、段織雲珠緞子です。
時代を感じさせない美しい仕覆で、どの裂地も垂涎でした。
保管の良さと共に、名器ゆえにあまり使われていないのでは・・と思います。

             
                 東大寺東塔・伽藍石の蹲踞

「田村文琳」の新たなエピソードを学芸員の方から伺うことができました。

藤田伝三郎は何度も懇願してやっと馬越恭平から「田村文琳」を
譲り受けたのですが、その披露の茶会をなかなかしませんでした。
それで、馬越恭平や茶友から催促されたとき
「田村文琳との取り合わせで一つだけ足りないものがある」・・・と。

その足りないものとは、あの有名な交趾「大亀香合」でした。
死の10日前に「大亀香合」を落札できたことを聞いて、満足して
藤田伝三郎はあの世へ旅立って行ったそうです。

             
                 奈良・山田寺の伽藍石

ガラス越しでも名器「田村文琳」を見られることは嬉しいけれど、
茶会に使わることこそが「田村文琳」にとって本望ではないかしら?
・・・と勝手ながら思っています。

                              その日は