暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

初風炉の茶事  遠山無限碧層々

2013年06月04日 | 思い出の茶事  京都編
昨年9月の「夕去りの茶事」へお出ましくださったSさまから
初風炉の茶事へお招き頂きました。

Sさまは某家庭茶事の会の会員です。
その会は、家庭で茶事をやってみたいという方々が
お互いに招き合いながら、切磋琢磨しているステキな会です。
京都へ来てからご縁があって、私も末席に加えていただいています。

某家庭茶事の会では一人で茶事をこなす方が多いのも驚きです。
それにはいろいろ創意工夫があり、細かい箇所も参考になります。
その一つ、元々茶事向きに作られていない家をどのように工夫し、
茶席に設えているのかも、伺う楽しみであり、興味津々です。

              

Sさま宅の玄関を入ると板の間に毛氈が敷かれ、そこが待合でした。
吹き抜けの階段に乱れ籠を置き、すっきりした空間を上手に創出し、
壁に掛けられた画の中では鮎が涼しげに泳いでいました。

お正客は昨年10月に「名残りの茶事」へお招き頂いたGさま、
次客は茶友Tさま、私は詰を仰せつかりました。
遠来のGさまが無事到着すると、ご亭主自ら白湯(昆布茶)が運びだされ、
腰掛待合へ案内がありました。

玄関から廊下と通路Aを通り、庭へ出ました。
途中、リビングかダイニングだと思うのですが、舞台裏を見せないように
布(帆布とリネンを足したような風合いがステキ!)で仕切られていて、
上手に通路Aが作られていました。

濡れ縁が腰掛待合になっていて、手入れが行き届いた庭は和風です。
蹲踞に筧が引かれ、水音が心地好く一入の涼を感じました。

                           

にじり口から席入りすると、四畳半の茶室、
床の掛物は大徳寺・伝衣(でんえ、でんねとも)和尚筆にて、
「遠山無限碧層々」(えんざんむげんへきそうそう)

遠くまで山が限りなく連なっている、行けども行けども次々山が現れてくる
・・・そんな山を無心に一つずつ、一歩ずつ超えていくしかない・・・
と勝手ながら解釈し、
ご亭主のお茶に対する無限の求道心に触れた思いがいたしました。

ご挨拶のあと、「都合により初炭を先にさせて頂きます」
眉風炉に形の好い富士釜が掛けられていました。
風炉中拝見で、眉風炉の難しい灰形と炭の置き形を見せて頂き、
私も灰形を勉強しなくては・・・と刺激を受けました。
朝茶事のように水次が出され釜が浄められたので、続き薄かもしれませんね・・。

初炭の後、香盆が運び出され、香を愉しむご趣向です。
香木を雲母にのせると、すぐに佳い香りが充ちてきました。
でも、香炉を近づけると、先ほどとは違う、微かな繊細な香りで、
香は「羅国」でした。

              

懐石が運び出され、ご亭主の手づくりに嬉しい舌鼓です。
筍の産地なので、筍料理を考えていたそうですが、
季節がめぐるのが早すぎて、あわてて別の料理へ変更されたとか。
私も懐石の献立をあれこれ迷って定まらないので、よく解ります。
シンプルな献立が気持良く、味も量も程よく、感心しながら賞味しました。
早速、近々の茶事へのヒントを頂戴しました。

中立の後、席入りすると
竹一重切に薄ピンク色の山法師が清々しくいけられています。
琵琶湖八景の染付水指から水が釜へ注がれ、湯を汲み、
濃茶が静かに練られました。 濃茶は喜雲、詰は丸久小山園です。
口に含むとまろやかな味と香り、
あまりの美味しさにたっぷり頂きたいなぁ・・・(詰でした)。

続き薄茶で、伊賀茶碗と八橋絵の茶碗で薄茶二服をいただきました。
お心入れのお道具の中でも、
前述のお軸と薄器(唐物茶器、岩淵祐二作)に心惹かれました。

六畳和室を床やにじり口を作って、茶室へ変身させたお話し、
庭を整理して和風へ変え、ご亭主自らデザインされたとか・・・
たくさんの刺激というご馳走を頂戴して、心から感謝いたします。

帰り際に玄関の扁額に気が付き、思わず一同頷きました。
「今日是好日」 (誠堂筆)