麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第558回)

2017-04-09 22:02:41 | Weblog
4月9日

「蜘蛛男」「猟奇の果」を読みました。「蜘蛛男」は少年探偵シリーズで読んで以来約45年ぶり。少年探偵には、蜘蛛男が被害者を「手籠めにする」シーンはもちろんなかったので、今回原作を読んで、「なんだ、手籠めにするのか」と思いました。子供のころの、蜘蛛男に対する理解は、「殺したり、バラバラにしたりということはまったく理解できないが、世の中にはそういう行為を愛する犯罪芸術家とでも呼ぶ人種がいて、蜘蛛男もそうなのだ」というものでした。それは、悪の中の悪ではあるが、どこか高貴なところもある……というふうに感じていたのです。ところが、「手籠めにする」わけです。「なーんだ」という感じですかね。ただの性欲過多でグロテスク趣味の下衆。ぜんぜん高貴ではなかったのですね。また、死体の腐乱臭が部屋に漂っているという描写だけで、魚を煮る臭いすらダメな自分には吐き気がしてきました。「猟奇の果」は、前半はとてもおもしろかったです。前半だけ読むと、これは、猟奇的な趣味に没頭して自分を顧みない夫に不満を感じた奥さんが、夫の親友に協力してもらい、日常が崩壊するかもしれないという危機感を抱かせ、夫の目をさまさせる……という人情喜劇なのかと思いました。もしかしたら、乱歩はそのつもりで書いたが、編集者に後半のようなエキセントリックな展開を要求されて、いわれるままに書いた……そういう事情でもあったのではないか、と邪推しました。続けて、いま「魔術師」を半分ぐらい読みました。あいかわらず派手なシーンが多いけど、すごく読みやすくなってきました。明智の奥さん、文代さんって、この事件の賊の首領の娘なんですね。どうやってくっつくのか、事件よりそこが楽しみです。また、毎回巻末に時代背景の説明があるのですがすごくていねいでおもしろいです。



ちくま学芸文庫から「枕草子 上・下」が出ました。以前ここにも書いた、同文庫「徒然草」と同じ方による校訂・訳つき。大好きな第六段の訳をまず読みましたが、とてもいいです。おそらく枕草子全訳の決定版になるのではと思います。ぜひ見てみてください。
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