麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第242回)

2010-09-26 16:14:35 | Weblog
9月26日


立ち寄ってくださって、ありがとうございます。

理由はとくにないのですが、ずっと「ハムレット」を読んでいました。
今年の春、研究社から「シェイクスピアコレクション」が出始めて、先日全10巻がそろいました。訳者は大場建治さんという方で、もともと対訳の英語教材として出していた本の和訳だけをまとめたもの。ちょっと高いのですが、活字も大きくて行間もゆったりしていてとてもいい本です。まず何から読んでみようかと考え、「やはり1冊目は『ハムレット』だろう」と思い、買って読んだのです。

感想は「悪くはない」という生意気なもの。しかし、なにかしっくりこない。そこで、以前ここでも書いたことのある、新訳文庫の「Q1」を読んでみました。いいにはいいけど、やっぱり少し軽い感じがして、結局河合訳で読み直しました。ようやくすっきり。

ハンバーグが食べたくて、初めての店で食べたけど、どうも納得がいかないのでいつもの店で食べなおした、という感じ。

でも、いつも思うのですが、「ハムレット」はどこがすばらしいのでしょうね。
いや、全体的に名句のオンパレードですごいとは思いますが、物語としてはどうか。物語としてならQ1が一番よくわかる。「生か死か」は、父の亡霊と復讐を約束したのにすぐに実行できていない自分の情けなさを嘆いているのだろうから、早い場面で出てくるのが当たり前のような気がします。役者たちにてきぱきと劇の手配をしたあと、1人で出てきて悩むのは、どうもよくわからない。また、母親の最期も、決定稿だとグラスに毒が入っているのを知らずに飲んで、ということになっていますが、Q1だと自殺とわかる。そのほうが胸がすっとするのは私だけでしょうか。

初演のころから人気があったのは、悲劇としてよくできているというより、案外、叔父と母の擬似近親相姦という設定や、ハムレットが母親やオフィーリアにこれでもかというくらい浴びせかける「女=淫売」論に、聴衆が下世話な興味を感じたからではないでしょうか。王と王女の近親相姦という強烈な設定の「ペリクリーズ」も人気があったというし。当時は演劇が、フライデーもアサヒ芸能もかねていたのでしょうから、当然といえば当然ですが。なにかハムレットというと哲学的にとらえられすぎているような気がします。いまそう思ったわけではなく、若いころからです。

私は「オセロー」こそ最高傑作だと思います。世界中にこれほど怖い話があろうとは思えません。稲川淳二さんの怪談より怖いと思います。



負の連鎖のようなことがあって、本来なら休める日にどうしても休めなくなったりして、そういうところにまた強く老いを感じます。若いときなら十のうち七は「なんとかいいほうに転んだ」のに、それが逆になっていくというのがまさに老い。そのぶん心の準備をしておかないといけないのがまためんどくさい。まあもう何十年も続くわけじゃないからいいけど。



では、また来週。
コメント
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