麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第222回)

2010-05-09 12:46:59 | Weblog
5月9日


立ち寄ってくださって、ありがとうございます。

すごい。
まだ風邪が治りません。本当に風邪なんでしょうか。
わかりませんが、めんどうなことです。



連休は正味3日間だったのですが、その間に「北回帰線」「南回帰線」を読みました。「北」は何回目かわからない読了です。でも、実は「南」を頭から最後まで通して読んだのは、初めてと言っていいくらいです。もちろん、どのページもばらばらに何十回となく読んでいますが。ばらばらに読んだ回数は「南」が一番多いはず。

「北」は、小説。「南」は歌。そういう感じです。今は「セクサス」「プレクサス」の記憶もなまなましいので、「南」の、モーナをテーマにした抽象的な歌もおもしろく感じられますが、いきなりそこだけ読むと、なんのことだかさっぱりわからないのも無理のないことで、後半にさしかかったところで読むのをやめたくなっても、それは読者の怠惰のせいとはいえないでしょう。ある意味、「南」は、ミラー全作品のダイジェストといってもよく、他の作品を読んだ後で読むのがいいと思います。

ミラーのリズムが染みついてしまい、とうとう、今は亡き福武文庫の「愛と笑いの夜」で、「頭蓋骨が洗濯板のアル中の退役軍人」と「ディエップ=ニューヘイブン経由」(吉行淳之介訳)をひさしぶりに読みました。もともとこの本は角川文庫から出ていて、初めて読んだのは学生のころだと思います。細部は大人になった今のほうがよく理解できたと思いますが、全体の印象はどちらも、当時とまったく同じです。どちらも傑作だと思います。

ひとつ謝罪を。以前、ここで、主人公が死にそうになる場面のことを書きました。私はそれが「プレクサス」の「南部行き」あたりのエピソードだと思っていたのですが、これは「北回帰線」の間違いでした。エピソードの位置としては「後半の真ん中くらい」という「感じ」だけは正しかったのですが……。すみません。



光文社新訳文庫から出たドストエフスキーの「貧しき人々」を買いました。失敗しました。ダメです。どうしてもこの方の訳文が好きになれません。「地下室の手記」でも十分後悔していたのに。往復書簡という形式が冗長なしまりのない訳文を選ばせるのかどうかわかりませんが、「貧しき人々」も文庫ではいい訳がないですね。私はやはり小沼文彦訳が一番いいと思います。

ちくま文庫に小沼訳ドストエフスキー全集が入ればいいのに! なぜ出ないのだろう? 私はそれを、訳者が決定訳を目指してゆっくり改訳をしているからではないか、と思っていたのですが、実はすでに12年前、訳者は亡くなっていたことを先日知りました。……だめだ。書くとむなしくなってくる。



では、また来週。
コメント
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