麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

遠回りのバス

2006-07-01 23:58:51 | Weblog
 遠回りのバスに、僕は乗っていた。
 窓から見える景色は、みな陽炎のようで、季節は夏のようだった。
 遠回りのバスは、海岸沿いの土地をゆっくりと走ってゆく。
 僕の隣の席には、白いワンピースを着た美しい女の人が座っている。
 美しいことはわかっているのだが、その女の人の顔は見えない。
 まぶしすぎる光が、女の人の後ろにあるからだ。
 僕は、きいたことのない発音の言語で、女の人と時々話し、笑った。
 遠回りのバスには、おそらく、目的地がないようだった。
 永遠ほども走り続けるうちに、僕は様々な町を見た。
 町には、どこにも、ふかふかとした絨毯が敷かれ、それが町ごとに違う色だった。
 赤い絨毯の町には、高い、銀色の塔が建っていた。
 紫色の絨毯の町には、静かな雑草が生えていた。
 時折、僕の住んでいた町が現れた。
 が、その次の町は、また、見知らぬ色の町だった。
 僕は、それらの町を見ているうちに、自分が、ガラス製のプリズムであることを思い出した。
 全てを了解したような気がして隣の席を見ると、女の人はいつの間にか光になってしまっていた。

コメント
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