鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

戦争の悲惨さをリアルに訴えている安部公房原作の演劇「城塞」は見ごたえがあった

2017-04-16 | Weblog
 15日は東京・初台の新国立劇場で安部公房原作の演劇「城塞」を観賞した。つい数か月前にその作品を読んだばかりなのに全然覚えていなくて戦争を批判した演劇としか思っていなかったが、どうしてどうして戦争をテーマとしているものの戦争によって捻じ曲げられた人間の悲喜劇を扱った演劇で、面白く観賞できた。出演は山西惇、辻萬長ら5人に過ぎないが、それを感じさせない熱演ぶりでたっぷり2時間大いに楽しませてもらった。
 
 「城塞」は中国の満州に位置する都市の街を見下ろす日本人実業家の豪邸の広間に天井から吊るされた死刑囚の男が日本が満州で展開してきた戦争を起こしたことについて罪に問われ、国の行うことに従っただけだ、と答える。場面は一転して、その広間の地下に設けられた居室に実業家、和彦の父が閉じ込めらている。外に飛行機の音が聞こえてくると、従僕がその父を引き上げて、息子の和彦に早く逃げ出すことを迫る。ところが、和彦は「母と妹を置いていくのか」と父をなじり、抵抗し、妹を説得することを迫る。父は「2人分しか座席を確保していない」と怒り、妹を呼びつけて現地に踏みとどまるよう説得する。そうこうするうちに妹は毒を飲んでしまい、家には中国の暴徒が押し寄せてきて、たまらず父は再び地下に潜り込んでしまう。

 どうやら、これは和彦が仕組んだドラマで、気の触れた父の精神を宥めるために過去10数年ずっと行ってきたことだった。そんな和彦の行いを耐えきれない妻は早く父を精神病院送りにしなさいと言ってきかず、夫も父同様の精神病者であり、禁治産者として訴え、財産を自らのものとしてしまう、と脅しにかかってきた。和彦は父の起こした事業を引き継いでさらに財産を築きあげてきたのをみすみす取り上げられてしまうのも業腹で、なんとか思いとどまらせようとするが、うまくいかず結局、父を精神病院送りにすることに同意する。

 そして最後に父にもう一度だけいつもの避難騒動のドラマを仕掛けるが、そこでいままでにないことを仕掛ける。というのはいままで行ってきたのはすべて嘘っぱちで、すべてが仕組まれたものだった、と打ち明ける。そして今回は妻がどうしても父を精神病院送りにしないと禁治産者にする、と言って脅してきたのだ、とも打ち明け、妹役をやらしていた踊り子に裸になっておどることを命令する。たまらず父は「休ませてくれ」といって気絶しかかる。和彦はそんな父に向って「壊れてしまえ」と絶叫して幕となる。

 戦争で日本のために尽くしてきた人々が最後にはこうして壊れてしまう姿を安倍公房は悲喜劇としてとらえ、戦争の悲惨さを訴えているのだろうか。憲法に改悪し、一路戦争に邁進しようとしている安倍首相にこそこの「城塞」を観賞して自らの執っている施策について反省してもらいたいものだ。同日のその時間、安倍首相は新宿御苑で花見をしていたようだが、そんな演劇が行われているとはつゆも知らないことだろう。
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