鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

奇想天外なストーリー展開で一気に読ませた「その女アレックス」は素晴らしい

2015-03-11 | Weblog

 2014年の週刊文春のベストミステリー第1位に輝いたフランスのミステリー、「その女アレックス」を読んだ。この手のものはがっかりすることが多いが、この作品に限ってはその通りの次から次へと奇想天外なストーリー展開で、一気に読み通すことができた。このところ、日本のミステリーにワクワクするものがないと思っていたので、その不満もいっきょに吹っ飛んだ。こんなミステリーを書けるピエール・ルメトリートルはミステリー分野にデビューしてまだ10年に満たない新人で、もっと面白いミステリーを期待したいものだ。

 「その女アレックス」はいきなり女性が誘拐されたシーンから始まる。それも最初はアレックスという鉄人みたいな女性が登場するのだが、そのヒーローぶりが描かれるのか、と思いきや、場面は誘拐劇となり、読み進むうちにその被害者がアレックスという展開である。しかもその捜査にあたる刑事がかつて自らの妻を誘拐され、殺されてしまってそのトラウマがいまだに残っているカミーユという設定である。カミーユはフランス人に珍しい身長145センチメートルという短躯で、そのことをコンプレックスに感じている。

 で、そのカミーユが誘拐犯を追うのだが、犯人は巨人ともいうべき怪力の持ち主で、アレックスをひと気のない無人の廃屋の倉庫に連れ込む。そしてアレックスを裸にし、追いかけて仕掛けていた木の箱のなかに自ら逃げ込む形で閉じ込めてしまう。身動きとれなくなったアレックスは必死で逃げ出そうとするが、どうにも動けない。犯人はそこへ大きな鼠を配置して、餓死状態にしてアレックスを食い殺すのを放置した状態のまま置く。その模様が延々と描写され、まさかこの描写が最後まで続くのか、と思わせる。

 ところが、誘拐犯を追っているカミーユが犯人を追い詰め、犯人は高速道路に逃げ込み、結果的に轢き殺されてしまう。残されたアレックスは鼠と必死の格闘を続け、遂に脱出することに成功し、カミーユが隠れ家に到達した時点では逃げ出してしまっていた。ここで第一部が終わる。本のカバーに「101ページ以降の展開は誰にも話さないで下さい」とよくある恐怖映画の宣伝文句のようなコメントが刷り込んであり、いかにも、ミステリー小説らしい雰囲気をたっぷり漂わせている。

 だから、ここでも詳細は書けないが、窮地を脱出したアレックスは今度は殺人犯として残酷な殺しを次から次へと犯し、挙げ句の果てにホテルで他殺死体とあんって発見されることになってしまう。で、カミーユは家族を呼んで、アレックスの死亡を確認してもらうことになる。ところが、ここで終わらないのがこの小説のいいところで、物語は意外な展開をみせ、奇想天外な結末をすることになる。まさに手に汗握る展開で、だれにも想像もつかないところが素晴らしい。

 「その女アレックス」の原題が単に「アレックス」で面白くもなんともない。頭に「その女」といかにも何かありそうなタイトルをつけ加えたところが発行元の文芸春秋社のアイデアといっていいだろう。すでに40万部売れたということだが、さらに売れるのは間違いないことだろう。アレックスは死んでしまったので、続編を期待することはできないのだろうが、実は死んでいなかったとして続編が書かれるようなことがあったら、読んでみたいものだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする