prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「アダプテーション」

2003年09月02日 | 映画
「マルコビッチの穴」の「7 1/2階」の元である、フェリーニ(ちゃんと台詞に出てくる)の「8 1/2」ばりに、監督ならぬ脚本家の創作をあっちこっちに飛躍を重ねて描く。原作の取材過程まで入ってくるのだが、この「蘭に魅せられた男」なる原作、実在するのかと疑った(調べたら、実在してます)。

何しろ脚本のクレジットが「チャーリー・カウフマン&ドナルド・カウフマン」で、主人公が同じ名前の二人、それをニコラス・ケイジが一人二役で演じる、つまり後者は実在しないのだから。「マルコビッチの穴」と同様、実在の人物を色々なレベルの虚構の設定に入れてしまいシャッフルする手。生物の発生にまで話がいってしまうのだが、一つの世界を作ってしまうという点では作家が神様気分にまでいっても実はおかしくない。

しかし、そういう人を煙に巻く色々な手を剥ぎ取って見ると、愚直なくらい正直な告白という感じ。ニ役のうちチャーリーが芸術派なのに対し、ドナルドの方が笑ってしまうくらい俗悪なホラーの作家(しかもいとも安直に書き上げてしまう)で、「ギョーカイ」と訳してあった台詞は“industry”と言っていたのが今のハリウッド製品にはぴったりで、初め前者の悩みに焦点を合わせているのかと思うと、ラストの方でそのホラーの内容ばりの展開になってしまい、ドナルドもそれまでの見かけとは違う真面目な地を出す。物書く人間がノーテンキ一本なんてことあるか、と思っていたから意外ではなかったが。

要するにニ分法は一種の方便で、どっちが上とか下とか決めず(決められず)、ああでもないこうでもないという過程そのものを見せ物にしようとしているということだろう。

ケイジのニ役の合成はよくできているのが当たり前になっていて、二人の役者の共演と同じ感覚で見ていた。画でびっくりさせようとしないのは、CM出身という色眼鏡で見られるのを拒絶している感じの監督の腕。

メリル・ストリープはラスト近くのホラー的展開になると、「永遠に美しく」もそうだったがひどく酷薄な(それもB級的な愛嬌のない)感じになる。
(☆☆☆★)


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