駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

ひとりギリシア悲劇『アガメムノーン』

2017年03月25日 | 観劇記/タイトルあ行
 朝日カルチャーセンター新宿教室10号室、2017年3月24日10時15分。

 紀元前458年に上演されたアイスキュロスのオレステイア三部作の1作目を再構成のうえ、ひとり芝居として上演。
 演出・構成・演奏・出演/佐藤二葉。導入に国際基督教大学名誉教授・川島重成氏の作品解説あり。

 ギリシア神話、というかトロイア戦争オタクのため、出かけてきました。さすが年配の参加者ばかりで私が最年少…?という観客というか受講者の布陣にビビりましたが、最終的には他におふたりほどお若いお嬢さんの参加者もいらっしゃいました。
 教授の講義はあまり語り慣れていない感じで多少退屈でしたが、佐藤さんの公演はさすがに鍛えられた声で素晴らしく、古代の竪琴リュラーを復元した楽器で当時の音階をかき鳴らしつつ歌う語る演じる舞うと、ものすごかったです。おもしろかった!
 タイトルロールはアガメムノーンだけれどこれはほぼほぼクリュタイメーストラーのお話ですよね。そしてアイギストスの存在感のなさったら…私は元の戯曲を読んだことがないのでどの程度変更されているのかわかりませんが、ヒロインの愛人はこの復讐の物語にはあまり関係ないとされているのかな…
 ホメロスの時代にはなかった「トロイア戦争に真の義はあったのか、この戦争は悪ではなかったのか」という視点がこの時代には生まれていた、というのはおもしろいなと思いました。時間がたてばたつほど客観的になっていくんですよね。
 そして当時の演劇の観客はもしかしたら男性のみに限られていたのかもしれないのだけれど、戯曲には超絶ヒロインが多く女の論理で進む話が男性作家によってたくさん書かれていたというのも興味深いお話でした。
 これは戦争に勝つためには自分の娘でも人身御供に出すという男の論理と、お腹を痛めて産んだ娘の命を犠牲にすることでしか勝てない戦争なんざ端からいらないと思う女の論理とがぶつかる物語です。そして復讐が復讐を呼び、やったことはやり返されるという非常なまでの倫理観に貫かれた作品でもあります。
 来月観る『エレクトラ』も楽しみです!



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宝塚歌劇花組『MY HERO』

2017年03月25日 | 観劇記/タイトルま行
 赤坂ACTシアター、2017年3月22日11時。

 かつて全米中の子供を虜にした伝説のMASK☆Jが帰ってくる…映画『MASK☆J The Movie』の公開が決定、主演は人気ナンバーワン俳優のノア・テイラー(芹香斗亜)。何を隠そう彼はMASK☆Jのスーツアクターを務めていた伝説のスタントマンを父に持つサラブレッドだった。だがイケメンで知的でたくましく…というのはあくまで彼の表の顔、実際のノアは酒や女にだらしがなく、トラブルを起こしては事務所にもみ消してもらう生活を送っていた。しかしついに致命的なスキャンダルが露呈して…
 作・演出/齋藤吉正、作曲・編曲/手島恭子、振付/若央りさ、港ゆりか、擬闘/清家三彦。花組二番手スター、待望の東上公演つき主演作。

 歌劇初の特撮ヒーローものにチャレンジ…ということでしたが、特撮ものを見たことがない人や子供のころに見ていても忘れてしまっている人もけっこう多いと思うので、いわゆるスーツアクターというものについてはもうちょっと丁寧に説明してもいいのではないかしらん、というところがまず引っかかりました。かなり最近の言葉ですよね? 少なくとも私が『ゴレンジャー』を見ていた子供のころにはなかった言葉だったと思います。そして当時、変身の前後を違う役者が演じている、という概念が私にあったかかなり定かではありません。そして大人になった今、それを知識として知らない人も実はけっこう多いのではないかと心配するのですよ。ノアの屈託やテリー(鳳月杏)の憧れのもとになる大事な設定なんだから、それがなんなのかきちんと抑えておいてから始めてもらいたかったな、と思ったのでした。
 それはともかく、作者がやりたいことをやりたい放題にやった愛と情熱にあふれる作品で、いろいろ雑だったり乱暴だったり無神経だったり軽かったり薄かったりするところも多々ありはしましたけれど、それでもやりすぎてどうにも困ってしまう事態になっていたり全然できてなくて目も当てられないみたいなこともなく、ある種すがすがしくて気持ちよく、楽しく観ました。
 ただ、特に二幕になってシリアスパートのくみちゃんがいい芝居をしたりするのを観たりすると、そうだよ全体のテンションをもう少しこっちに寄せて、もうちょっとだけちゃんと作ってもよかったんじゃないの?とは思いました。まあこれは好みの問題もあるんでしょうけれど。それより「ケロケーロ」がやりたかったり、偏差値30で笑えるような戯画化された世界をあえて構築したかったのかもしれないけれど、やっぱり芝居って人間を描くものだと思うので、そんなに浅くちゃダメなんじゃない…?と私は思ったのでした。
 まあ贔屓が出ていてリピートせざるをえなくなったら、私だって適当に見切って割り切って、勝手に補完してテンション合わせて楽しんで観たに違いないんですけれどね。でもそうでない観客も判断を下していくわけですからね。まあ結局は客入りがすべてなのかもしれませんけれどね、興行ですからね。
 『フォーエバー・ガーシュイン』を観られていないので、私がキキちゃんの主演作を観るのはこれが初めてです。私個人は全然惹かれないんだけれど、なんの瑕もないなんでもできる素晴らしいスターさんだと思っていますし、いい役いい作品に当たってさらに人気が出て躍進していけばいいな、と思っています。ノアも、まあわかりやすいキャラクターではありますが、だからこそいい役で、過不足なく魅力を発揮できていたと思います。なんせ特撮スーツを着て顔をバイザーで隠していても誰だかわかってカッコいい、というのは実にたいしたものだと思います。死んだ母親のことを好きすぎて父が連れてきた再婚相手を受け入れられない…というのはちょっと女性ウケしづらい設定に私には思えましたけれどね。ちなみにこの子供時代を演じた糸月雪羽、絶品でしたね! あとハル(綺城ひか理)はちゃんとメイベル(芽吹幸奈)を愛していたことにするべきだったと思います。子供の母親が欲しくて再婚する男とかサイテー。メイベルの方はちゃんとハルを愛していただけに残念でした。のちに言及しますが車椅子とか老人ホームとかテリーの病気とか以上に私が引っかかったのは、実はここかもしれません。そして他のものは「特にそこまで深く考えてなかった」ってだけかもしれないけれど、このハルの設定にはヨシマサの男女観が、恋愛観が、人生観が表れているのではないかと私は思う。そしてそれは観客が宝塚歌劇に求めるものと微妙にずれていて危険なのではないかと危惧しています。ダーイシならともかく、ヨシマサにはそういうことは今まで感じてこなかったのになー…あーあ。
 二番手格のテリーちなつもスタイルの良さやカッコ良さ、歌でもダンスでもアクションでもなんでもできる芸達者ぶりや的確で温かい演技ができるところを見せられるいいポジションだったと思います。が、せっかくのキキちなにしては脚本がいかにも甘く浅かったのが残念です。学生時代からの友人で今は俳優としての格に差がついていて、ノアが嫌う父ハルをテリーは敬愛していて…という設定からはもっと確執ある深いドラマが展開できたはずなのに、あっさりでしたもんねー。そこに萌えはないんですね、って感じでした。もったいなかったなー。
 ところで、私は一度しか観ていないのでいろいろ把握できていないことも多かろうと思いますが、テリーの病気設定って必要ですかね? てか療養のためとはいえあっさり引きすぎじゃない? この設定を振るならもっとちゃんと意味があってちゃんと回収しなきゃダメなんじゃないかな…病気ってそんなに簡単にネタにしちゃいけないものなんじゃないかと思うのです。もちろん実際の世の中にごくごく普通に存在するものであり、お芝居の中と言えど自然に普通に扱うべきだ、むしろごくカジュアルに扱うべきだ、という作家の意図が感じられなくもないのです。マイラ(音くり寿)の車椅子同様にね。でも、実際のこうした病気とか障害とかはそう簡単には筆舌に尽くせない難儀なことがいっぱいあるはずで、描き切れないに決まっているフィクションのお芝居で安易に扱うべきではないとも私は思うのです。このあたりの雑さ、無神経さは私は引っかかりました。宝塚歌劇って浮かれているし所詮絵空事を描いている女子供の娯楽かもしれないけれど、現代的なPCの波はもうぼちぼち避けては通れないものになってきていると私は思いますよ…演じている生徒に罪はないだけに、役を通して傷がつくことを私は恐れます。
 ダブルヒロインは元プロテニスプレイヤーでグラビアアイドル経験もあってノアのマネージャーになるクロエ(朝月希和)ひらめちゃんと、ハルが事故死した際に助けられた子役で、後遺症で車椅子になっているマイラくりすちゃん。ナレーションではこの物語のヒロインはマイラとされていますし、ノアとのロマンスを展開するのもマイラなのでそれはそうかもしれませんが、ポジションや物語の中での活躍度合いは本当にほぼ同等で、ひらめちゃんが本当にいい仕事をしていて観ていて楽しかったです。もちろんもっと王道のヒロインもできる娘役さんだと思っていますけれどね。そしてふたりとも、というか出てくる人みんな歌が上手くて耳福な舞台でした。気になったのは、くりすちゃんが小さくて童顔だからって、そして上手いからって、子供時代も演じさせてしまうとちょっと時空が混乱したかな…というくらいでしょうか。あと、キキにお姫様抱っこをさせたいだけだったんだろうとしか言えない車椅子がやはり、気にはなったかな…

 スマイリー一家はみんなすばらしくて、タソはもちろん、映見ちゃんがキレッキレで矢吹くんのアホボンも素晴らしくて、スーパー助演だったと思います。
 老人5人組も、けっこうな下級生も混ざってましたがみんな達者で感心しました。でもだからこそ老人ホーム設定は必要あるのかとか、ボケやセクハラの扱いがギャグと言うにはうそ寒い…と思いましたけれどね。
 るな、りりか、しーちゃんもいい仕事をきっちりしていて、とてもよかったです。あと「お姉さん」(あえてのカッコ書き(笑)、美花梨乃)ね! あ、ジェイ(聖乃あすか)も短い出番ながらとてもよかったです。

 あとはフィナーレかなー。ホントうるさいことばっか言ってすみませんけど、迷彩服、アーミー衣装はないわ…ヒーローは悪と戦うんだよ、でも兵隊は、軍隊はむしろ「悪を」戦うものですよ。戦争いくない。ここは混同してはいけません。
 もっとバリッと都会的なスーツにドレスとかでよかったんだよ…残念でした。私は苦言を呈し続けたいです。

 ドラマシティでも盛り上がりますように、よりブラッシュアップされますように。ノッた者勝ちなところはあると思うので、通われるみなさんは振り切って、元気に「チェンジジャスティス!」してください。
 ところでこれって「正義を変えろってどういうこと?」とか思っていたのですが、「正義に変身☆」ってことだったんですね、失礼しました…


 


 
コメント
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