駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

国際女性デーに寄せて~『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』激賞日記

2022年03月09日 | 日記
 日が変わっての更新となってしまいましたが、先日テレビで見たこの映画がとてもよかったので日記として書いておきます。NHKでこのところ多様性に関する映画かなんかの特集をしていて、それで録画して見ました。公開当時、気になっていたけど結局映画館へ行けなかったものです。2017年のアメリカ映画です。
 1973年に、29歳のアメリカ女子プロテニス選手のチャンピオン、ビリー・ジーン・キングと、55歳になっていた往年の男子テニス選手ボビー・リッグスが行った世紀の名試合、という実話をもとにした物語です。ビリーを演じたのはエマ・ストーン。
 とにかくすごくよかったです、何もかもがすごくよかった。だからいちいち語るのもアレなんで、機会があればなんとかして見ていただきたいです。
 男女の試合の賞金格差がひどすぎるので是正を、ということを発端に女たちが立ち上がる物語なんですけれど、とにかくなんか説明臭くないのにキャラとか状況とかがすごくよくわかるのがとてもよかったです。ホットでオシャレな映画でした。
 プロモーターのおじさんたちは、男子の試合の方がパワフルでスピードもあり人気がある、だからだ、とかそれっぽいことを言うんだけれど、賞金額が8倍違っていいほどには観客動員数は変わらない。ビリーたちがあくまでその数字でもって理詰めで問うても、おじさんたちは肩をすくめるだけ。要するに女になんか金を払いたくない、という蔑視が見え見えなんです。じゃ、とビリーはその団体をさっさと抜けて、自分たちで別団体を作ってとっととトーナメント・ツアーを始めて人気をさらっていくのがまずカッコいい。賛同してパッと集まる仲間がいるのもいい。ウーマンリブとか冷やかされても、「そうですけど何か?」って感じで肩肘張らずにフランクに取材に応じちゃうのもカッコいい。
 記者会見のための美容院で、ビリーは美容師のマリリンに担当してもらい、出会う。ここがまた素晴らしくイイ! ことさらな描写がなくても全然伝わるの、そうそう恋ってそうやって生まれて恋心ってそうやって伝わっちゃうものだよネ!ってのがもうたまらん。
 ビリーには夫がいて、女性とは初めて。マリリンにも彼氏はいるけれど、女性も好き。そんなふたりが…というのがまたイイ感じにリアルでイイ感じにロマンチックなのだ! キャー!! ちゃんとエッチでセクシーだけどポルノチックじゃないのもベッドシーンなのもイイ。
 一方、ボビーの方はことさらマッチョとかミソジニー男とかいうわけではない、あえて言うならフツーのおっさんです。ギャンブル依存症で常に小金が欲しくて、女とエキシビジョン・マッチしたら話題になって金取れるんじゃね?程度の思いつきでやっていて、その方がウケるからというだけであえて女性差別主義者的な言動をしてみせてマスコミを煽っているだけの、道化のお騒がせ男です。けれど最初の妻との間に生まれた息子はもう大人になっていてあきれられているし、今の妻ともギャンブル依存が原因で険悪ムード。そういう家庭不和の問題を抱えている中年、いや老年にさしかかっている男性なワケです。この描写もまた適格でコンパクトで上手い。
 ビリーの夫ラリーは、これまた細かい描写がないのでなんの仕事をしている人なのかとかはよくわからないのですが、ビリーがテニスを一番に考えていることにとても理解があるタイプで、彼女が支えを欲しがるときには帯同するし集中したがっているときには離れていられる、とてもスマートで優しい男性です。だから合流予定だった遠征先のホテルに、当然同室のつもりで訪れる。しかしバスルームに妻のものではない女性の下着を見つける。見つけられたことをビリーも気づく。するとラリーは別の部屋を取る、とだけ言って立ち去るのです。すごくないですか!? 欧米ってみんなこうなのかな、基本がここにあるのかな、ホントすごいよね!? まず、男にとって最大にショックなことのひとつに妻を寝取られることがあると思うんですけれど、妻を女に寝取られることはそれに輪をかけてショックだと思うんですよね。てか本当は相手の性別なんかどうでもいいことなはずなんですけどね。でもたいていの男はこうでしょう。そして愛を裏切られたとかより何より、ブライドが傷つけられたと思うものでしょう。それで日本の男だったらギャースカわめいて暴れてなんなら手が出そうなものじゃないですか、でもラリーはそんなことはしないんです、そこは紳士なんです。もう夫婦というものの在り方が根本的に違うんですよね。夫婦だから同室同衾が当然、でも心が離れたら別室が当然、という潔さと、そういう寝室とかバスルームとかの個人の尊厳をきちんと尊重する態度が素晴らしい。ズルズルベッタリしていないんですよね、ホント精神的にオトナだなあ、と思う。というかアンガー・コントロールがちゃんとしている、ということなのかなあ。デカ主語で語りますが、日本の男は幼稚すぎますよ…
 また、ビリーのライバルのマーガレットがいい。夫も小さい子供もいて、ママさん選手としてがんばっていて、ちょっとお堅いタイプで、ビリーとマリリンの恋仲をすぐ見抜き、そこは黙っているのがさすがオトナなんだけれど、一方で「なんてみだらな…」と唾棄せんばかりなの。この人にとっては不貞も同性愛も神に背くとんでもないことで、堕落の極みなんですね。女性がみんな一枚岩で団結できるとは限らない、という例を描くエピソードとしてとても上手い。
 マリリンとの恋愛で悩むビリーにマーガレットは勝ち、マーガレットがボビーと先に試合をするのだけれど、マーガレットはプレッシャーに負けて惨敗する。ボビーのおちゃらけた陽動に真面目なマーガレットは動揺させられた、というのもあるし、いかに彼女の側にシニアだろうと男性選手には勝てない、という思い込みもあったのでしょう。調子に乗るボビーに、ビリーが挑戦状を突きつける…事実なんだろうけれど本当によくできた筋書きです。
 ウェア管理をするスタッフ、ないしデザイナー?にゲイらしき男性がいるのもベタというかある種の偏見なのかもしれませんが、彼がビリーを応援するハグとか、ホント泣かされました。女でも男と同等に戦える、という証明と、同性同士でも異性同様に愛し合える、という主張を通すのとではレベルが違う、というかいっぺんには荷が重い。それでも…
 試合の描写がまた素晴らしいんですよ、本当にいい試合内容なの。私程度でもよくわかる試合展開で、演出としても正しい。気持ち良く拍手してしまいました…!
 ほぼほぼトレーニングをしていなかったビリーはバテバテで、筋トレから走り込みからコツコツ調整を続けてきたビリーはショットが冴え渡り、精神的にもタフです。自ずと試合は決まります、それがスポーツの真剣勝負というものなのです…!
 試合後のロッカールームで、ビリーがひとり泣くシーンがまた本当にいいです。ビリーはみんなのためにがんばったし、周りのみんなも彼女をいろいろと支えた。でも試合を戦ったのはビリーです、勝ったのもビリーなんです。勝利も、それによる寂しさや責任や孤独も、全部ビリーひとりのもの。嬉しいけど怖い、くだらない、虚しい…みたいな、笑っているとも泣いているともつかない、なんとも言えない表情で静かに座り込むビリーの描写が本当に素晴らしい。名シーンだと思いました。
 一方、ボビーのロッカールームには別れた妻が現れます。これもいい。ある種の男性にはやはり女性が必要で、それは普通に認められていいことだとも思うからです。
 ビリーがお祭り騒ぎの表彰式に出て行くところで映画は終わり、後日談がテロップで語られます。ビリーはラリーと離婚して、マリリンとカップルになったこと。ラリーが再婚でもうけた子供のゴッドマザーになったこと。その後も男女格差是正やLGBTQ問題に声を上げ活動し続けたこと。ボビーが妻と復縁したこと…
 いい映画だなあ。でもこれ50年前、半世紀前の話なんですよ。ここからあまり世界は前進していないのでは? イヤ欧米はまだマシでちゃんと進歩しているのかな、北欧なんかは本当にあらゆることがほぼほぼ男女平等になっているんだそうですよね。翻って本邦…ホント悲しくなります。やはりとりあえずクオーター制ってのは必要なんじゃないのかなー。とにかくまず数ですよ、数。質が…とか男は必ず言うけど、今だって男だってだけで質の低い人間が席に座ってたりするんだから同じことです。とにかく半分どかせ、よこせって話なんですよ。
 差別はどんなものでも問題で、重要度の軽重なんかない。でもまず女性差別から撤廃しましょう。あらゆるマイノリティの中で女性というのは最大のものです。単純な数だけなら男性よりわずかに多いんですしね。まず一番大きくわかりやすいものから、それがとっかかり。それができて初めて、他のことも可能になっていくようなところが、残念ながらあるんだと思うのです。
 それなのに、「国際女性デー」ですら、女性を始めあらゆる人が…とか言って「女性」をなかったことにしようとする、いないものとしようとする。どんだけ見たくないねん、とあきれますよね。まず見ろ、目を背けるな。女の話をしてるんだ、女の話をしようぜ。ノンバイナリーがとかトランスがとかはいいの、とにかくまず女。まずそこから。そこが第一歩。
 そんなことを改めて考えた一日なのでした。
 私は性差別に反対します。私はフェミニストです。すべての人の人権を尊重し、自分のことも尊重されて生きていきたいです。
 今後ともよろしくお願いいたしますです。




 
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