駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『Beautiful』

2020年11月25日 | 観劇記/タイトルは行
 帝国劇場、2020年11月23日18時半。

 ニューヨークに住む16歳のキャロル・キング(この日は水樹奈々)は、教師になることを勧める母親のジニー・クライン(剣幸)を振りきって、プロデューサーのドニー・カーシュナー(武田真治)に曲を売り込み、作曲家としての一歩を踏み出す。やがて同じカレッジに通うジェリー・ゴフィン(伊礼彼方)と出会い、恋に落ちたふたりはパートナーを組み、キャロルが作曲しジェリーが作詞を担当するようになる。ほどなくキャロルは妊娠、結婚したふたりは必死で仕事と子育てに奮闘するが…
 脚本/ダグラス・マクグラス、音楽・詞/ジェリー・コフィン&キャロル・キング、バリー・マン&シンシア・ワイル、オリジナル演出/マーク・ブルーニ、'17年版演出リステージ/ジェリー・バトラー、翻訳/目黒条、訳詞/湯川れい子、演出リステージ/上田一豪。キャロル・キングの楽曲で彼女の半生を綴るジュークボックス・ミュージカルで、2014年ブロードウェイ初演、2017年日本初演の再演版。

 初演時に食指が動かなかったのは、キャロル・キングの名前と「ロコモーション」くらいは知っているけれど親世代くらいのアーティストだよね?と思ったのと、ミュージカルとして架空の物語をやるのかアーティストの半生ものなのかよくわからなかったこと(そして私はこの人はこういう名前の黒人男性歌手かと何故か思っていたのでした)、そしてタイトルが漠然としすぎていて今ひとつイメージが湧かず興味が持てなかったからでした。思えば曲名だし、もともとそういうタイトルのミュージカルなんだから仕方ないんだけれど、でも日本では「Beautiful Life」でも「Beautiful Days」でもなんでもいいんだけれど、何かもうひとつ単語がついていたら、もう少し何かがイメージしやすかったのではなかろうか、とか思ってしまいました。とにかく宣伝がわりとふわっとしていたと思うんですよね…なのでそんなに当たった印象もありませんでした。
 なので再演の報を聞いて、そんなに評判が良かったのか、と驚き、よく見たらメンツはやたら豪華で歌える芸達者揃いだしな、と心惹かれ、そして再演も開幕したら好評ばかりが聞こえてきたところに、知人に誘われたのでホイホイ出かけてきました。
 水樹奈々も私は「なんか人気の声優さん」という程度の認識でした、すみません。だから自分でチケットを手配していたら平原綾香回を選んでいたと思うけれど、ご縁で出会えてよかったです。多分どっちも歌はめっちゃ上手くて、でも役作りはけっこう違ったんじゃないのかな? 両方観た方の感想がうかがいたいです。
 セットがとても素敵(オリジナルセットデザイン/デレク・マクレーン)で、あと衣裳(裏切らない前田文子)もとても素敵でした。この時代、いいですよね。アンサンブルもみんな歌が上手くて素晴らしかったです。意外に知らない曲ばかりだったんだけれど、それでも楽しかったのは歌唱がしっかりしていて歌謡ショーとして楽しく観られたからだと思います。
 ご存命の人物の半生記ものなので、もちろんそれなりにドラマチックではあるんだけれど、たとえばものすごく深い心理描写があるドラマとかいうよりは、ああなってこうなってという筋が転がるタイプのストーリーで、ドラマはライトに、歌唱はたっぷり楽しく、というバランスがいい舞台なのかな、と感じました。タイプとしては『オン・ユア・フィート!』に近いのかな? 私は重くて濃いものの方が好みなんだけれど、それでも楽しかったのは、とにかくみんな歌が上手くてノーストレスだったからだと思います。
 ところで、黒人を演じる際のブラックフェイス問題はその後どうなったのでしょうね…この作品では黒塗りはしていませんでしたが、ちょっと濃いめの地肌にしているようには見えました。あと縮れ毛の鬘でしたよね。人種を表現することにはそんなには意味がないストーリーだったかとは思いますが、この作品に限らず日本で日本人が日本語で外国ものを演じる際には、人種の区別を表現する必要がある場合はどうしても肌の色を白くないし黒く塗らざるをえない場合があると思うのですが、それが人種差別に当たるのかどうかは、どう考えていったらいいものなんでしょうね…

 さて、そんなわけで水樹奈々のキャロルはとても真面目で一途で一生懸命で、可憐でいじらしく、応援したくなるヒロイン像を見せてくれて、歌はパンチのあるものもしっとり聴かせるものも自由自在で、素晴らしかったです。夫、親友夫妻ともみんな歌ウマで楽しかったです。武田真治もウタコさんももっとバリバリ歌ってほしかったなー。
 そして私はソニンが好きなので、キャロルが夫との関係に悩んでシンシアに愚痴ったりするくだりでは、「うん、キャロル、シンシアにしとけ?」と念じながら観ちゃいましたよ(笑)。ライバルで戦友で親友、みたいなシスターフッドがとても素敵でした。
 アッキーも久しぶりだったので、シンシアとバリーのカップルにはかなりキュンキュンして観ました。好きだから結婚したい、と言うバリーと、好きだけど関係性が変わっちゃうのが嫌で結婚を渋るシンシア…でも「ふさわしい相手と結婚しないのは、ふさわしくない相手と結婚するよりダメなことよね!」みたいな感じでやっと決断する。少女漫画チックなラブコメっぷりにニヤニヤしちゃいました。でも芸術家同士のカップルってのはホントはけっこうタイヘンなんじゃなかろうか、とも思いました。

 「君は友だち」の「Winter,spring,summer or fall/You just call out my name/I’ll be there/You’ve got a friend」というのはすごく英語っぽい言い回しだけれど、すごくわかるし、いいなと心震えました。「呼んでくれたらいつでも行くよ、だって友達じゃん」みたいな意味ですよね。
 あと「Natural Woman」の「You make me feel like a Natural Woman」というのもすごくわかります。何がどうナチュラルで生まれながらの、生まれつきのなのかはいろいろと議論があるところですが、でも私は所詮シスヘテロ女性なので、男性との恋愛やあれこれでこういうことかと実感した経験はあるので、響きました。
 日本語の歌詞も全体に過不足なくよかったけれど、なんせみんな歌が上手いので歌詞も明瞭に聞こえて意味やイメージがよく伝わり、でもストーリーにすごく絡んでいて意味を取り考えることが必要、みたいなこともなくて、聞いていてすごく楽でストレスがなくて、よかったなあと感じました。イヤ最近だと『アナスタシア』の歌が、キャラやストーリーに直結しているのに歌詞があいまいで理屈が通っていなくてブレていて、キャラやストーリー解釈の根幹に揺らぎが出ていることにストレスを感じたので、つい…
 舞台の奥にバンドがいて、カテコでは顔が見えて客席から拍手が送れたのもよかったです。クリエはコロナで残念なことになってしまっていますが、こちらは千秋楽まで無事完走できますよう、祈っています。




コメント
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