駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『危険な関係』

2017年10月27日 | 観劇記/タイトルか行
 シアターコクーン、2017年10月23日19時。

 パリ社交界に君臨する妖艶な未亡人メルトゥイユ侯爵夫人(鈴木京香)は、かつての愛人ジェルクールへの恨みから、その婚約者セシル・ヴォランジュ(青山美郷)の純潔を踏みにじろうと画策する。助力を求めたのは稀代のプレイボーイで、メルトゥイユとは長きにわたりあらゆる悪だくみを共有しているヴァルモン子爵(玉木宏)だ。だがヴァルモンは、伯母ロズモンド夫人(新橋耐子)の屋敷に滞在している貞節の誉れ高きトゥルヴェル法院長夫人(野々すみ花)を誘惑しようとしているところで…
 作/クリストファー・ハンプトン、翻訳/広田敦郎、演出/リチャード・トワイマン、美術・衣裳/ジョン・ボウサー。ピエール・ショデルロ・ド・ラクロの書簡体で展開される恋愛心理小説を原作に、1985年初演。原作の書かれた18世紀末と戯曲の書かれた1980年代、そして2017年の日本を結ぶ形で再演。全2幕。

 原作小説も大好きですが、宝塚歌劇版『仮面のロマネスク』であれば、花組再演版の感想はこちら、花組版はこちら、宙組版はこちら
 というわけで宙組版でメルトゥイユ侯爵夫人を演じたスミカのトゥールベル夫人役(今回の表記はトゥルヴェル法院長夫人)が観たくて出かけてきましたが、とてもおもしろく観ました。前日に「帝劇のカテコは長いのが嫌なんだよなー」と、席が通路際なのをいいことに二回目のラインナップでは席を立って劇場を出てきてしまったのと裏腹に、二階席最前列で立つのは怖かった&後ろの迷惑になるかもしれないなと思いながらも素でマジでさっさとスタオベしましたよ私…
 ペ・ヨンジュン主演の韓国映画『スキャンダル』のトゥールベル役に当たるチョン・ドヨンにもそういう雰囲気はありましたが、確かにトゥルヴェルというキャラクターは「ただ内向的で地味で貞淑」な女性であるはずがなく、純粋さや自らの貞淑さを狂信するあまりの一周回ったエキセントリックさ、情熱を持っている人だと思うのです。スミカがプログラムで語る、「夫を愛する貞淑な妻であり、信仰心も篤い"幸せな自分"は、ほかの女性たちとは違うという自惚れ」を身にまとう、「慎ましやかだけどとても激しい女性」であり「無意識に男の人を誘惑してしまう」ところすらある、言うなればちょっとトンデモな人間、という分析は至極正しいと思いました。そしてそれをスミカがあますところなく体現してくれるのでした。そのチャーミングさ、磁場に引き寄せられないはずはない!
 この作品ではセシルの若さは愚かさや、醜さ…と言うのが乱暴なら洗練されなさ、とイコールです。登場からミニ丈のドレスを着ていてもほっそり美しいという印象は与えず、武骨で鈍重だと感じさせます。そういう体型の女優を選択しているのだろうし、そういう態度を取らせ演技をさせているのです。
 対してメルトゥイユは膝丈のドレスですっきりとお洒落、でも明らかに中年だし話すこともふてぶてしく憎々しいほどの内容で、あまり美しくもなく魅力的でもない…と私には思えました。
 だから、丈の長いドレスを着て、でも腕は剥き出しというトゥルヴェルの様子がいかにも衝撃的だし、そのエキセントリックさ、ヒステリックなまでの激しさが痛々しくも愛しくもあり、すこぶるチャーミングに映るのでした。これはヴァルモンが取り込まれてしまっても仕方がないでょう。その情熱は彼が、そしてメルトゥイユがとうに失い、また否定し続けてきたものなのです。彼女はその渦中にある。それが彼を惹きつける。
 ヴァルモンはトゥルヴェルに吸引されて結局はともに滅するのであり、メルトゥイユはロズモンドやヴォランジュ(高橋惠子)とともに残り、目隠しでする危険なゲームを続けていきます。恋人同士のふたりには広く愛の褥にもなったソファが、中年女三人で腰かけるとなんと窮屈なことか…! まざまざと見せつけてくれる最終場でした。

 時代設定や歴史考証どおりのお衣装を着せる気がないのだとすれば、セットというか装置についても考えざるをえず、なので今回の上演場所である日本ふうに…というセットというか装置は、でも私は全然嫌ではありませんでした。こんな日本あるかい!みたいななんちゃって日本、似非ジャポネスクではなくて、畳や襖からイメージされているんだろうけれどもっと抽象的な舞台空間になりえるセット、というようなものに上手く昇華されているようで、私は美しいなと感じたのです。そのうえで日本的な抑圧、みたいなものは十分感じられましたしね。
 そんな中で、獲物のはずの女に引っ張られて破滅する男と、その男を利用するだけでなく真の魂の友として求め続けていたのに裏切られ残るしかない女…の物語として、私は今回の舞台に激しく心揺さぶられ、ものすごく楽しく観たのでした。だからラインナップは鈴木京香がラストの方がふさわしいのにな、と思いましたよ…
 白靴下を履いてザッツ・童貞なダンスニー役の千葉雄大くんもいいパピーっぷりでしたし、法院長やベルロッシュは出てこないことに意味があるし、セシルとどう違うのかわからないくらいの娼婦エミリー(土井ケイト)も素晴らしかったです。あとアゾラン(佐藤永典)や家令(冨岡弘)の在り方も、おもしろかったしよかったです。
 『仮面ロマ』はやはり激しく宝塚ナイズされているのだなと改めて理解できましたし、その上でこのある種不毛な原作小説を私は愛しているので、また機会があればいろいろなものを観てみたいなと思いました。

 プログラムでスミカがしているネックレスは、小道具なのかしら自作なのかしら…アシンメトリーがキャラクターを如実に表現していて素晴らしいです。いつかスミカのヴォランジュそしてロズモンドが観たいものです。さぞ素晴らしかろうよ…!
 イヤまずは大空さんのメルトゥイユにスミカのトゥルヴェルなんでのもいいのにな…と、結局は宝塚脳ですみません。でも久しぶりに複数回観たい! あと翻訳がとてもよかったので戯曲として読みたい!と思った舞台でした。







コメント (2)
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