駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

浅田次郎『王妃の館』(集英社文庫)全2巻

2016年12月30日 | 乱読記/書名あ行
 パリはヴォージュ広場の片隅にたたずむ、ルイ14世が寵姫のために建てたという「王妃の館」。今は一見の客は決して泊めない、パリ随一の敷居の高さを誇る超高級ホテルとなっているこのシャトーに、何故か二組のワケあり日本人ツアーが同宿することになり…傑作人情巨編。

 配役も出たことだし、と宙組公演の予習に読んでみました。映画は未見。
 演目発表時から「クレヨンは誰がやるの?」と騒がれている印象があったのですが、なるほどみんなこういうキャラクターが好きだねぇ…
 ただ、贔屓がその相手役(笑)を務めることになったようなので、さて大丈夫なんだろうな?とあわてて読んでみました。
 結果としては、心配していたほどではなかった…かな。つまりもっと目も当てられない扱いなんじゃないかと心配していたし怒りまくる気満々だったのです(いつも何かに怒る準備をしていて申し訳ない…)。くだらないギャグ扱いになっているとか、リアリティのかけらもないとか、ちょっと前の作品とはいえセクシャルマイノリティに対してあまりにあまりな偏見や嘲笑に満ちみちた描写なのではあるまいか、と…
 ツイートでスクショを上げている人がいて、語尾にハートマークがついているのとかも耐え難かったんですよね。ラノベならまだしも、一般文芸が恥を知れ!と。
 ま、結果から言うとハートマークは確かにありましたし、なんの効果も上げていず作家のアタマの悪さを露呈しているだけだなとしか思えませんでしたが、総じてこのカップルの、あるいは彼らのキャラクターの描き方はそこまで悪いものではなかった、と私には思えました。というか、そもそも全体にそんなに人間をきちんと描いているような文芸作品ではなかった。エンタメ中間小説としてはまあこんなものだよね、という印象でした。あまり読んだことがない作家さんなのですが、なんかもっと歴史大作みたいなのでブレイクした人なんじゃなかったっけ?
 まあでも、なので全体としては意外にも、「で、どうなるの?」という興味でちゃんと引っ張られて、最後まで楽しくスイスイ読みました。
 ただ…これってそんなにものすごくおもしろいしいい作品って感じじゃないですよね? 映画化したり舞台化したりするほどの価値があるもの? ぶっちゃけこの程度の群像劇なら、少なくとも宝塚歌劇オリジナルでいくらでも作れそうじゃない?
 『銀英伝』や『ルパン三世』、『るろうに剣心』くらい原作にネームバリューがあれば「あの作品を宝塚歌劇でやるなんて!?」ってインパクトや宣伝効果があると思うけど、この作品にはそんな力はありませんよね…? なんでオリジナルで作らないの?
 私にはいかにも注文されて書いただけの、言いたいことやテーマやメッセージは特にない、なんてことない作品にしか見えなかったけどな…ラストにトートツにいいこと言おうとしている感じがいっそ鼻につきました。
 百歩譲って、あまり有機的に絡んでいるとは思えない劇中劇というか、作品の中で小説家キャラクターが書いている小説の内容パートが、宝塚歌劇では正しくやれる、というのはあるかもしれませんが…
 ただこれも、観ていないのでホントはなんとも言えませんが、映画の、フランスのルイ14世のエピソードなのに日本人俳優がやることのおかしさ、おもしろみ、の方が正しくて、タカラジェンヌが外国人に扮することはフツーすぎてそれだけでは笑えない、みたいになったりしませんかね?
 あと、原作小説では現代パートと劇中劇パートはまったく独立していますが、それでいいのかな? それでおもしろくなるのかな? なんか、そつちの方が心配です…
 もちろんマコちゃんとクレヨンについても、マコちゃんの「熱血堅物警察官」設定は踏襲するようだけど、年齢とかガタイとか警察辞めてるのかどうかとかはそのままやるのか謎だし、やれるものなのかやった方がいいのかも謎、変更するならどう修正するのかも現時点では見えなくて謎で、心配ではあります。下手にやるとクレヨンよりデリケートな問題になりそうで激しく不安。
 クレヨンについても、女性の男役に、性自認が女性の異性愛者の現段階では体(の一部はまだ)は男性、というキャラクターをやらせるんですからね、よく考えて台詞書いてくださいよ田渕くん! クレヨンは同性愛者じゃないんだからね、ここ試験に出るからねマジで!!
 私にあきりくを美味しくいただかせてください、頼みますマジで。

 …こんなおそらく年内ラストの更新ですみません…
 来年も良き一年となりますよう!


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須賀しのぶ『神の棘』(早川書房)全2巻

2016年12月30日 | 乱読記/書名か行
 1935年、ドイツ。若く優秀な保安情報部員アルベルトは、党規に従い神を棄てた。そして上官からヒトラー政権に反発する国内カトリック教会の摘発を命じられる。一方、アルベルトの幼馴染マティアスは、大恐慌で家族を亡くし、修道士として静かに暮らしていた。道を分かたれたはずのふたりが再び出会ったとき、友情と裏切りに満ちた相克のドラマが幕を開ける…歴史ロマン大作。

 …という裏表紙のリードからも、カバー装画からも、これは精神的BLとして読む物語なんだろうな…と思って臨んだのですが、どうにもメインキャラクターのふたりに愛嬌が欠けていて親近感が持てず、ドラマとしてもそこまで盛り上がらず、ストーリー展開も歴史を追う部分が多くてちょっと教科書チックで、中盤はかなり退屈しました。
 最後の最後である種のギミックが明かされ、やっぱりこのふたりのドラマが描きたかったんじゃん、とは思ったのですが、それがうまく表れていなかったような…そんな印象でした。
 ふたりを通して、愛とか祈りとか許しとか罪とか、神とか政治とか国家とか民族とかのねじれやぶつかりを描きたかったんでしょうが、残念ながら力足らずというような…そんな印象でした。
 でも人気がある作家さんですよね。いくつか読んではいますが、他の作品も機会があれば読んでみたいです。

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篠原悠希『後宮に星は宿る』(角川文庫)

2016年12月30日 | 乱読記/書名か行
 名門・星家の御曹司・遊圭は皇帝崩御に伴う一族すべての殉死が決定されて、ひとり呆然としていた。からくも逃げ延びるが、追われる身に。かつて助けた平民の少女・明々に窮地を救われるも、彼女の後宮への出仕が決まり絶望する。だが、遊圭も女装して後宮に行くことに…中華ふうファンタジー。

 文庫書き下ろし作品で、キャラクター小説というよりはライトノベルでした。中華ふうの架空世界での少年主人公の冒険譚で、キャラクター造形はやや累計的でしたが世界観やディテールの設定がちゃんとしていて、楽しく読みました。
 …が、オチていないんですけど!? っていうか、途中で終わっちゃってるんですけど!? なんなの? 連作予定なの? でもいかにも連載打ち切りになっちゃった漫画のラストの「これからもがんばるぜ!」みたいな、無責任な話の閉め方なんですけど!? よくこんな中途半端なものを売り物にするな角川書店! 始めた話は完結させてから売れよ、読者をなんだと思っているの!?
 楽しく読み進め、しかし美しいオチの形が想像つかなかっただけにオチを楽しみにしていたのに、オチないで終わるという目に遭わされるとは…もったくもって腹立たしいです。

 ヒロインが男装して男子寮に潜入するとか、この話のように少年が女装して後宮に入るとかの、異性装の物語は少女漫画やライトノベルには根強い人気があります。今回の場合は主人公が声変わりを迎え女装もしんどくなり、さてどうなる…?というスリルがありましたが、それも未回収。
 そしてこういう物語では、性別を偽っていることによるラブのこじれがたいてい大きなモチーフになるものですが、今回は周りのキャラクターの布陣が、彼女に仕える形で後宮に共に行くことになる明々と、そこで出会い主人公の正体をいぶかしむ宦官の玄月で、後者とBL風味になるのも微妙だし、といって明々にもヒロイン力が欠けているようで…と心配していたら、結局未回収のまま、でした。
 読者を馬鹿にしてんのか!!!

 おもしろかっただけに、残念でなりません。


 以下、脱線。
 こういう物語に頻出する「宦官」ですが、実は私は正確なところをよく知りません。競馬を観ていたし乗馬をやっていたので馬の去勢については知っているんだけど、人間の去勢ってどうなってるの?
 馬は、睾丸の精巣を取るだけなんですよね。だからペニスは残る。人間もそうなの? ということは勃起できて性交もできるの? ただ射精せず子供ができないだけなの? それともペニスも切っちやうの? でもそれだと排尿に困るの?
 そのあたりの設定によっては、生じる障害とかエピソードが変わってきそうなのですが、ちゃんと描写されたものを読んだことがなくて…調べるほどのことではないしとここまで放ってきたのですが、ちょっと気になったのでこの機会に書いてみました。
 くわしい方がいましたらご教示いただきたく…

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