駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『キンキーブーツ』

2016年10月09日 | 観劇記/タイトルか行
 シアターオーブ、2016年10月5日18時半(初日)。

 イギリス中東部の田舎町ノーサンプトン。老舗の靴工場「プライス&サン」では社長のプライス氏(トム・スラーダ)が幼い息子チャーリー(この日はハリソン・ライト)に靴の美しさを語っていた。しかし大人になったチャーリー(アダム・カプラン)は家業を継がず、フィアンセのニコラ(カリッサ・ホグラント)とロンドンへ。その矢先にプライス氏が亡くなり、次期社長として帰郷したチャーリーの前には大量の返品と契約キャンセルが…
 脚本/ハーヴェイ・ファイアスタイン、音楽・作詞/シンディ・ローパー、演出・振付/ジェリー・ミッチェル。実話を基にした2005年の英米合作映画を原作に13年ブロードウェイ初演。トニー賞受賞。先日日本版も初演された、USナショナルツアー版。全2幕。
 
 映画は未見で、日本版を観たいなと思っていたのですがチケットを取りはぐれ、どこかから回ってくるだろうと高をくくっていたら大人気で玉砕していたところ、来日版の初日チケットが振ってきたので出かけてきました。楽しかったー!
 私は字幕は苦手なのですが、そんなにバリバリ踊るミュージカルではなく、歌がメインの印象だったので、それほど気になりませんでした。でも日本版は芝居をもうちょっとこまかくつけていたんだったらいいな、とは思いました。
 ベッタベタなんだけど普遍的なメッセージがあって、いい作品ですね。女性観客としては「父と息子」の物語にはそれほどピンとは来ませんが、「母と娘」の物語とはまた違った鬱屈があることは十分に想像がつくので、泣かされました。
 あと、なんの小説だったかな、「女が望んでいることは何を望んでいるのか尋ねられること」というような台詞だか文章だかがあって、至言だなと私はずっと思っていたのですが、そういうくだりもありましたね。「What a Woman Wants」。男は女を対等に見ないから、女に問うことすらせずに一方的に決めつけてくる。望みは叶えられなくてもいいの、でも何が望みなのかをまず尋ねてほしいの、勝手に決めつけないでほしいの、何かを望んでいる独立した存在だと認識してほしいの。まだ、まずそこからなんだよね、21世紀になってもね…
 ドン(アーロン・ウォルポール)のキャラクターとエピソードは類型的だけれど、一見リベラルに見えた主人公チャーリーにだって偏見はあって…という展開も、残念ですがやはりよくわかります。女性というマイノリティとして(数だけなら男と同じだけいるのだが)マイノリティ差別に敏感で理解があるつもりの私たちもまた、きっと同じようなことをして他のマイノリティを傷つけることがあるでしょう。それをなるべく減らしたい、傷つけたら謝って正したい。愛で世界を変えたい、自分を変えたい…「You Change the Worlo When You change Your Mind!」
 ラストに、ニコラもシニアもジュニアも、みんなが再登場して一緒に踊る構成なのがすごくよかったです。宝塚歌劇ばかり観ていると、普通の舞台に男性がいること、というか美男美女ばかりでない物語に仰天するのだけれど、多様性を認めていくってこういうことですしね。ニコラはすらりと長身のスレンダー美女だけどいわゆる仇役になり、真のヒロインのローレン(ティファニー・エンゲン)がちょっとぽっちゃりさん、というのがホントはとてもいいんですよね。
 そしてなんと言ってもローラ゜(J.ハリソン・ジー)の華とインパクト! ものすごい長身で男装姿はとてもスマート、でもやっぱり赤いドレスとヒールがお似合い。すばらしい! 私は彼女が(ドラァグクイーンなだけであってゲイではないかもしれないし性自認が何かはわからないからこの代名詞が正しいかわかりませんが。というかこういうときに性別の無意味さを痛感しますよね)出身地と本名を名乗るくだりに爆泣きしました。もともと呼称フェチなので誰が誰をどう呼ぶかにうるさいんだけど、それで言ったら一人称とか名乗りってのは一番大きな問題ですからね。
 スタッフ陣は大好きな『トーチソング・トリロジー』やとてもおもしろかった『フル・モンティ』のメンバーなのですね、さもありなん。たくさんの人に観てもらえて、愛される作品に育ちますように。そして世界が少しでも優しく美しく変わりますように、願わないではいられません。



コメント (2)
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