駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『スカーレット・ピンパーネル』

2016年10月30日 | 観劇記/タイトルさ行
 赤坂ACTシアター、2016年10月26日13時半(赤坂千秋楽)。

 1789年、王政への不満を爆発させた民衆が蜂起し、フランス革命が勃発。その後、ロベスピエール(この日は平方元基。プリンス・オブ・ウェールズと二役)を指導者とするジャコバン党が権力を振りかざし、元貴族らが次々と処刑される恐怖政治が続いた。混乱の中、無実の人々を断頭台から救おうと立ち上がったのは、イギリスの貴族パーシー・ブレイクニー(石丸幹二)。彼は仲間と共にピンパーネル団を結成し、知恵を絞った救出作戦を秘密裏に敢行。その活躍ぶりは瞬く間に広まったが、女優を引退しパーシーの妻になったマルグリット(安蘭けい)でさえも正体を知らず、いつしか夫婦の間に大きな溝が生じていた…
 原作/バロネス・オルツィ、脚本・作詞/ナン・ナイトン、作曲/フランク・ワイルドホーン、編曲/キム・シェーンベルグ、訳詞・翻訳・潤色/木内宏昌、潤色・演出/ガブリエル・バリー。1997年ブロードウェイ初演、2008年に宝塚歌劇団星組にて日本初上演されたミュージカルの、ブロードウェイ版脚本・演出をベースに今回用に作られた舞台。宝塚版用に書き下ろされた「A Piece of Courage(ひとかけらの勇気)」も取り入れられる他、新曲二曲が追加されている。全2幕。

 宝塚歌劇での初演星組感想はこちら、再演月組感想はこちら。私が初めて生で観た新公は月『スカピン』東京で、そのときの感想はこちら
 宝塚歌劇が輸入・翻案・上演している海外ミュージカルの中では私はかなり好きです。たとえば『エリザ』なんかより全然おもしろいと思っています。
 なので見比べてみたかったので、お友達に声かけていただいて赤坂千秋楽に滑り込んできました。いやー、楽しかった!
 歌詞や曲の位置なんかはちょいちょい違うのですが、舞台装置のイメージとか話の展開とかはけっこうまんまなので、「おお、そうきたか」とか「ここはこうなったか」とかいろいろ思いつつも、基本的にはイケコはもともとのブロードウェイ版にかなり準拠して作っていたんだな、ということが察せられました。でも宝塚版のために役を増やしたり、後半のストーリーをかなり改変しているのはおもしろい。そして冒頭にスカピン団が貴族をギロチンから救うエピソードを足してパーシーに早速「ひとかけらの勇気」を歌わせているのは、男役トップスターの登場を早めるためでもあるし主人公を強く印象付けるためでもある。正しい。
 こちらは幕に映る影絵を別にすれば、マルグリットがコメディ・フランセーズで歌う場面から始まっているので、主人公よりも先にヒロインが歌う形になっちゃっているし、その主人公は舞台の端っこ、マルグリットの舞台の客席で手を振る一観客として登場するので、ちょっとキャラクターがつかみづらいかなと思いました。まあダンスたくさんのミュージカルというよりは歌メインのオペレッタふうではある作品だから、プリマドンナが最初に大ナンバーを歌ってもいいのかもしれませんが。
 さて、このパーシーはこの段階ではスカピン活動をしていないのですよね。となるとマルグリットとの出会いや、ふたりの恋はどんな感じで始まったんでしょうね? わずか6週間のおつきあいで結婚に至った、火花のような恋…みたいな表現になっている気はしましたが、ふたりとも外見も役作りも歳相応、つまり恋に恋する十代後半か二十代前半の若者、みたいな設定ではない、いい大人なはずなので、ちょっとナゾ。つまりパーシーはスカピン活動の目くらましとして極楽蜻蛉をやっているわけではなく、なんの理由もなく極楽蜻蛉なようなので、マルグリットは彼のどこがよかったの?とはショーヴラン(石井一孝)ならずともちょっと言いたくなってしまうのでした。
 ただ、サン・シール侯爵(田村雄一)の救出失敗からスカピン団結成に至る流れは悪くなかったな、と思いました。あと、ふたりがいい歳ながらも結婚初夜まではベッドを共にしていないことと、逆にマルグリットとショーヴランとの間には過去に肉体関係がきちんとあったことが明示されているのもいいなと思いました。というか、その方が自然ですよね。マルグリットは貴族の子女ではないから、結婚までは処女でないと…みたいな育てられ方はしていなかったのでしょう。そして革命の熱に浮かされただけなのだとしても、ショーヴランとは一時期はちゃんと恋人同士で、やることはやっていた。パーシーだってもちろん経験はあるんだろうけれど、結婚するとなった女性には結婚式前は手を出さなかった。で、そのままになってしまった。
 男はすぐ「おまえはあの女とまだやってないんだろう?(俺はやったぞ)」みたいなことを言いたがりますよね、もうニヤニヤしてしまいました。宝塚版では当然カットで、それはスミレコード云々よりはこんな男性のいじましさは宝塚歌劇の世界には不要だからだと私は解釈していますが、ショーヴランがただのストーカーに見えちゃうのはかわいそうだとは思っていて、マルグリットとちゃんと恋仲だったことは提示すべきだと思っていたんですよね。それは別にヒロインの格を下げることではないのだから。だから今回、ショーヴランの元カレ感が増して見えたことには賛成だし、より萌えたのでした。
 あとは、マリー(則松亜海)の婚約者は別にいてアルマン(矢崎広)とは違うこと、にもかかわらずアルマンのちょっと情けないキャラクターは健在なこと(私はアルマンが大好きなのです!)、そのマリーの婚約者がタッソーで彼女がのちのマダム・タッソーになることはちょっとおもしろかったです。そして後半の、というか全体のストーリー展開のメインの軸はルイ・シャルル王太子の救出劇ではなくアルマンの救出劇になっているんですね。ま、やってることは変わらないんですけど(^^;)。
 ロベスピエールは今回新曲をもらっていたようですが、これは来年の星組版でかいちゃんが歌うのかなあ。主な配役に上げられているのだから、役のポジションが多少上がるのでしょうね。ウェールズ公と二役、というのはいい皮肉でいいなと思いました。これは宝塚版では生徒にたくさんの役を与えるために別々のままだと思いますが。
 フィナーレはありませんでしたが、休憩込みたっぷり三時間、楽しかったです。ラインナップでマルグリットが劇中でも着ていなかった真紅のドレスで現われたときには、ちょっと笑ってしまいました。さすがヒロイン、さすがトウコさん!とも思ったのですが、よくよく考えたらこれは、彼女もこれでスカピン団の一員、以後みんなとともに活躍していくのだ、ということを示した紅はこべ色のドレス、なのかしらん?
 マルグリットが「ひとかけらの勇気」(今回のタイトルは「悲惨な世界のために」)のリプライズを歌うのは、トウコさん故のサービスなのかなあ? ブロードウェイ版にもあるのかな? あと私はアルマンが大好きだし姉弟萌えがあるのですが、マルグリットとアルマンが「あなたこそ我が家」(今回は「あなたは我が家」)のリプライズを歌っちゃうのはおもしろすぎました。イヤ大事な家族だからいいんだけどね?
 聴き慣れたナンバーはどれも男声が加わって音域が広く豊かになり、音楽的に素晴らしさ倍増になっていました。ここは男女混声の強みだなあ。もちろん声量や歌唱力ということでも宝塚歌劇団とは段違いで、聴いていて単純に楽しかったです。ダンスはほとんどないので、ミュージカルとしてのショーアップはやはり宝塚版に軍配が上がるかな。でも、娯楽大作として今後も広く愛され続ける作品になっていくといいな、と思いました。

コメント
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