駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

伊坂幸太郎『ガソリン生活』(朝日文庫)

2016年05月03日 | 乱読記/書名か行
 のんきな兄・良夫と聡明な弟・亨がドライブ中に乗せた女優が翌日急死! パパラッチ、いじめ、恐喝など一家はさらに謎に巻き込まれ…車同士がおしゃべりする唯一無二の世界で繰り広げられる、仲良し家族のオフビート・ミステリー。

 私は運転免許も持っていませんし、車種の見分けも全然付かないし、ドライブにも興味がなく、助手席に座るより後部座席で寝ていたいタイプです。
 でもこれは楽しく読みました。きゅんきゅんしました。一家の自家用車、自動車の一人称で語られる、家族の物語とはなんと楽しいアイディアでしょう。
 彼らは車中の人間たちの会話を聞くことで世界を知り、そして車同士のおしゃべりでさらに広い世界を十分に知っていて、その理解はけっこう正確で、でも車だからやっぱりできることとできないことがあって、だけど彼らなりにいろいろ考えていて、何より家族を愛している。愛しい、せつない。
 もしかしたら本当にこんなこともありえるのかも、と思わされました。上手い。


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『FAIRY TAIL』

2016年05月03日 | 観劇記/タイトルは行
 サンシャイン劇場、2016年5月2日19時。

 魔法評議会を無視して不法な依頼を受ける闇ギルドの最大勢力・バラム同盟の一角、「六魔将軍(オラシオンセイス)」が近頃不穏な動きをしているらしい。そこで「妖精の尻尾(フェアリーテイル)」「青い天馬(ブルーペガサス)」「蛇姫の鱗(ラミアスケイル)」「化猫の宿(ケットシェルター)」の四つのギルドが連合を結成して「六魔将軍」を討つことになる。「妖精の尻尾」からは夏(宮崎秋人)、エルザ(佃井皆美)、グレイ(白又敦)、ルーシィ(愛加あゆ)が参加し、「青い天馬」からは一夜(富岡晃一郎)とヒビキ(小野健斗)、「蛇姫の鱗」からはジュラ(熊野利哉)とグレイの兄弟子リオン(小澤廉)、そして「化猫の宿」からはウェンディ(桃瀬美咲)が参加するが…
 原作/真島ヒロ、脚本・演出/児玉明子、音楽/和田俊輔、美術/石原敬、映像/荒川ヒロキ、森すみれ。『FAIRY TAIL』舞台製作委員会が主催、協力にネルケプランニングや一般社団法人日本2.5次元ミュージカル協会が名を連ねるライブ・ファンタジー。全1幕。

 テニミュやペダステを観たことがないので、いわゆる2.5次元ミュージカルなるものを観てみたくて、勉強のつもりで出かけてきました。ヒロインあゆっち、演出こだまっちということでとっかかりもありましたしね。
 私が考える2.5次元ミュージカルの定義は、どちらかというとストーリー性よりキャラクター性に特化したタイプの、そしてなんらかのファンタジックな要因のある漫画やライトノベルを原作にしていて、そのファンタジックな部分を映像なども駆使しつつ生身の役者と舞台ならではのマジックで立体化し、ミュージカル仕立てで盛り上げているもの、といったところでしょうか。そして観客は作品としての出来云々よりキャラクターの再現度を重視し、かつ中の人(つまり役者)をアイドル的に支持したりしている。そしてどちらかというとその原作は一般社会的にはややマイナーであったりする。だから『ベルサイユのばら』なんかは、ファンタジックな要素がないから単なる漫画原作の舞台、でしかない。『ルパン三世』は泥棒の技なんかが秘儀っぽいし、『るろうに剣心』も原作漫画には秘儀とか奥義とかが出てくるのでファンタジックな部分もあるんだけれど、少なくとも宝塚歌劇でやった舞台化にはその部分がほとんど出ていなかったので、2.5次元ミュージカルと呼ぶには微妙なところかな、と思います。ネルケが絡んでいた『花より男子』なんかも、あれほどのお金持ちというのはファンタジーかもしれませんが、それは魔法とかとは違うタイプのファンタジーであり、原作は現代日本を舞台にしたごく一般的な恋愛ものの少女漫画だったので、これも単なるその舞台化、という印象でした。
 今回は、魔法があって魔導士がいて、という世界観でのバトルもの少年漫画を原作にしているのですから、絶対に観たいものが観られるはず!と勇んで出かけてきました。
 観たいもの、という意味では、例えばやっぱりチャチかったり、舞台作品として、またエンターテインメントとして今ひとつだったりして…ということを想定して出かけたようなところは、あります。客層も若かったし、まあ子供だましかな、みたいな感想を持つんだろうな自分は、みたいな気分で行ったのです。嫌な大人ですみません。
 でも…全然フツーにおもしろかった。というかとてもよくできていました。なんならうっかり泣きました。恐るべし2.5! イヤこれがかなり出来のいい方で、こだまっちの手腕あってこそ、なのかもしれませんが、それにしても楽しかったです。
 ちなみに予習のために原作漫画を10巻ほど読んだのですが(コミックスは54巻まで刊行中で、連載は未だ続行中とのこと)、今回この作品で舞台化されたのはその先の「ニルヴァーナ編」と呼ばれている部分でした。だから細かい設定とかはわかっていませんし、再現度がどうとかの比較や考察はできないのですが、知らなくてもおもしろかったです。というか原作を1コマたりとも読んでいなくてもわかるようにちゃんと作られていました。
 冒頭に(映像でその世界の歴史というか設定を語るところはちょっと『銀英伝』チックだったな、そういえば)最低限の設定とキャラクター紹介はされますし、後は基本的にアクションとごく淡白なドラマで見せていくだけなので、アトラクションのように楽しめます。でも、ゆっくりエピソードを重ねてキャラクターを立てたりするようなドラマ展開じゃない分、役者がアニメ声優もかくやというオーバーアクション気味の発声で台詞を熱く語ることで芝居をするので、わかりやすいし惹きつけられやすく、十分にドラマを堪能できるのです。
 あとは、さすがに歌える人踊れる人がそこまで揃えられなかったのかもしれませんが、もう少しミュージカルらしいナンバーが入ると、全体の緩急が付けられてよかったかな。90分ずっとバトルと会話の繰り返しだと、いかにキャラクターが多彩でバトルの見せ方にいろいろ工夫が凝らされていても、やはり単調でちょっと中だるみを感じました。
 でもそれ以外はキャストがみんな達者で、アクションはもちろん演技がちゃんとできて、かつみんなスタイルが良くてホントにハンサム、ホントに美人! 今どきの若い役者さんたちはすごいなあ。もちろんいいところを揃えているのでしょうが、みんなキャリアも人気もあるようで、頼もしいなと思いました。
 そんな中であゆっち、良かったです! ルーシィというのはちょっと変わったヒロインなんですが、原作キャラのいわゆるマンガっぽさもすごくよく出せていたし、泣きのいい演技ができていましたし、歌うとなったら本領発揮とばかり生き生きしていて安心感がありましたしね。
 原作は、少年漫画にしては珍しく、主人公のキャラクターが希薄で、狂言回しのようなポジションにいるルーシィ視点でストーリーが進んでいくような構造になっています。で、ナツとルーシィは同じギルドに属す魔導士で仲間だけれど、恋愛フラグは特に立っていません。ルーシィは主人公の恋のお相手、という意味でのヒロインではないのです。また、巨乳のナイスバディの少女として描かれていますが(しかもお嬢さま設定まであるんですよ!)、セクシーアイコンとしてのヒロインとしても特に機能していないのです。あくまで性別が女性なだけの、そしてやや新米だというだけの、仲間キャラクターの代表格のひとりにすぎないんですよね。逆にこういうところが今どきの少年漫画として人気を博しているのかもしれませんが…
 エルザ・スカーレットにしてもそうで、スタイルがいいことはこの世界観の中ではごく一般的であたりまえのことでしかないのかもしれません。彼女も、強くて凛々しくて勇ましい、武士のようなキャラクターであることに意味があって、性別にはあまり重きが置かれていないような、不思議な扱いなのです。
 必要以上に女性性を売ることなく、ただキャラクターどおりに舞台に凜といて美しく、普通のアイドル女優には無理だろうと思われるよく鍛えられたアクションを披露する佃井エルザの姿に、心底痺れました。
 そして宮崎ナツがまたよかった。とにかく原作では影が薄い不思議な主人公なので、こんなに真ん中でヒーロー然としているナツはナツっぽくないくらいなのですが、やはり主演ならこれくらいでないとね。鍛えて割った腹筋を惜しげもなく見せて、舞台をところ狭しと飛び回り走り回り、よかったです。どうぞお怪我のないように。
 真剣に作っていて、真剣に演じていて、ファンも真剣に観ているから、劇場が熱くなっていて、感動を呼ぶんですよね。私は原作至上主義というか、漫画が二次使用されることへの屈託を多少は持っていたのですが、形を変えることでより広く深く遠く愛されるようになるなら(この作品も中国公演が決まっています)単純にいいことだよね、と考えるようになりました。オリジナルを作れない人が体よく利用している、とかではなくて、きちんと原作をリスペクトした上で、舞台でしかできないことをするために舞台化しているのだから、応援しない手はないな、と思いました。だって私は漫画も舞台も好きなんだもん。漫画は世界に誇れる文化だけれど、2.5次元ミュージカルも日本発祥の世界に誇れるエンターテインメントに育つといいな、と思います。オペラもスペクタキュルも生み出せなかったけれど、これなら、と思えるものがここにはある、そんな気がしました。そして若いファンも、ここからさらに音楽やストレート・プレイも楽しむ大人に育つといいなと思いました。
 おもしろかったです!





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本谷有希子『異類婚姻譚』(講談社)

2016年05月03日 | 乱読記/書名あ行
 子供もなく職にも就かず、安楽な結婚生活を送る専業主婦の私は、ある日、自分の顔が夫とそっくりになっていることに気づく…自由奔放な想像力で日常を異化する短編集。表題作は第154回芥川賞受賞作。

 残念ながら舞台をまだ観たことがないのですが、これは一編を除いてとてもおもしろく読みました。いかにも芥川賞っぽい純文学だとも思いました。
 私は結婚したことがないけれど、そして最も身近に目にしている両親という名の夫婦はこんなではないけれど、この小説にあるような側面というものは確かにあるのではないかなー、と思いました。それをこういう形で小説にするんだから、やはり文学ってすごい。
 そして男とか女とか夫婦とかということだけでなく、人間として形ある存在としてあることの不確定さと不可思議さに、思いをはせないではいられなくなる、そんな一冊でした。

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