駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

てがみ座『汽水域』

2014年12月03日 | 観劇記/タイトルか行
 シアタートラム、2014年12月1日ソワレ。

 海水と淡水が混じり合う場所、汽水域。フィリピンの河口でウナギの密漁をしていた少年は、自らのルーツを求めて日本へ向かう潮流に乗る。過去を問い直すことの根幹にはアイデンティティの探求が必ず含まれている。今の自分は何者なのか? 汽水域からアジアを見渡す、ある喪失の物語。
 脚本/長田育恵、演出/扇田拓也。全1幕。

 お友達に誘っていただいて出かけてきました。ミーハーな私が普段観る演目とはタイプが違っていて、最初の三分くらいはどうしようかと思いましたが、すぐに引き込まれ、集中して見入り、最後は号泣しました。
 物語はフィリピンの片田舎、海水と淡水が混ざり合う川岸のバランガイ(村)と、日本の横浜の、かつては日雇い労働者の街として栄え今は生活保護受給者の街と化した寿地区を交互に展開されます。誰が主人公でなんという名前でどんな人となりで、といったようなことがまったく明示されないまま進むので最初はとまどったのですが、そういったことは舞台から立ち上るようにすぐに見えてきます。照明がフィリピンの場面ではまろやかだったり日本の場面では裸電球を思わせる寒々しさだったりして、そして常に正面から役者に当てられたりはしていないので、顔もはっきり見えないのですが、でも人間って全身でその人間なんだし、そのキャラクターを全身で体現している役者の力量にうならされました。声がいい人がまた多くて、明晰ででもナチュラルで、膨大な台詞も綺麗に消化できました。
 フィリピンもドヤ街も現実の自分からは遠くて、主人公は日本とフィリピンのハーフなんだけれどその生い立ちも遠くて、でもそういう距離は問題ではないのでした。国と家族をめぐる物語、ということではたとえばごく最近観た『familia』と同じだったのですが(感想は千秋楽後に書きます)、あれもポルトガルという国とかヒロインの孤児という立場が自分からは遠かった。そしてあの舞台にはなかった普遍性がこの舞台にはあると思いました。
 国とか国家とかは人が作るものだけれど、その国や国家が人々の生活を脅かすことがある。そこで戦い抗い、もしかしたら敗れ去る人はみな、父と母のもとに生まれた人間です。今そばにいなくても、誰にでも家族はある。人はひとりでは生きていけないし、家族や社会が人を育てるのです。
 秋雄(箱田暁史)は悲しい夢を見てしまったのかもしれない。今の日本は彼の夢を叶えてあげられる国ではなかった。それでも彼はブローカーにお礼を言える人間だし、殺人を思い止まれる人間なのです。正確に言うと、彼が一線を越えるのを止めてくれる家族がいる人間なのです。
 彼は貧しかろうがなんだろうが、そういうことを教えてくれる家族のもとで育ったまっとうな人間だということです。その表現が本当に詩的で舞台演劇でしかできないもので、私はもうその美しさに爆泣きしてしまったのでした。
 ラスト、冬夜(橋本昭博)がたたずむ岸辺はもしかしたら彼岸と呼ぶべきものだったのかもしれません。でも彼の声はちゃんと兄の秋雄に届いている。「潮の香りだ」舞台に香りはありません、でも観客には確かに海が見えるのでした。もうもう爆泣き。
 太く、強く、凛々しく、美しい舞台でした。感動しました。私はナンパな演劇ファンだけれど、いい経験をさせていただいたなあ、と思いました。ありがとうございました。


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『シカゴ』宝塚歌劇100周年OGバージョン

2014年12月03日 | 観劇記/タイトルさ行
 梅田芸術劇場、2014年11月28日ソワレ。

 夜の街にジャズの音色が響き、マフィアが暗躍する1920年代、禁酒法時代のアメリカ・イリノイ州シカゴ。夫と浮気相手の妹を殺害した元ヴォードヴィルダンサーのヴェルマ・ケリー(この日は湖月わたる)が現われ、虚飾と退廃に満ちた魅惑的な世界に観客を引き込む。一方、ナイトクラブで働く人妻のロキシー・ハート(この日は朝海ひかる)が浮気相手に銃弾を放つ…
 作詞/フレッド・エッブ、作曲/ジョン・カンダー、脚本/フレッド・エッブ&ボブ・フォッシー、初演版演出・振付/ボブ・フォッシー。翻訳/常田景子、訳詞/森雪之丞。1975年初演、1996年リバイバル版初演の人気ミュージカルの宝塚歌劇団OGによる上演。全2幕。

 最近観たものだとこちらなど。
 今回はビリー(姿月あさと)はズンコでした。
 世界中で公演されるため、コンサート・バージョンとも言えるブラッシュアップを遂げている演目ですが、ユリちゃんやまりも始めアンサンブルも素晴らしく、スタイリッシュなダンスとステージングは堪能しました。
 歌唱は残念ながら弱かったかな。ママ・モートンのちあきしんはさすがでした。
 でもとても楽しいエンターテインメントに仕上がっているなと思いました。宝塚歌劇ファンだけでなく一般のミュージカル・ファン、映画しか観たことがない観客にも観ていただきたい演目だなと思いました。
 また、こういう試みは続けていってもいいのではないかなと思いました。「男役」はあくまで現役のものだとは思っていますが、でも男役でしか表現できないものがあり、現役生徒の舞台にはそぐわない演目がある、というのも事実だと思うので。
 興行としては成功しているようなので、うまくプロデュースしていっていただきたいです。
 もちろんその一方で、卒業生にはいつまでも宝塚歌劇の看板とファンに頼ることなく新たな仕事をしていっていただきたくもあるのですが、ね。

 しかしソノカがカッコよかったなー!
 私はタカラジェンヌは女性だからこそいいのだというスタンスで愛でてきたつもりであり、かつ残念ながらただのヘテロのモテない女なのですが、今回のソノカには男を見たなー! 男のソノカと一夜を共にしたい、と思った。こんなふうに考えたことが意外とないので(笑)けっこう動揺しました。悶えましたが楽しかったです!


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宝塚歌劇星組『風と共に去りぬ』

2014年12月03日 | 観劇記/タイトルか行
 神奈川県民ホール、2014年11月23日マチネ。

 宝塚歌劇では1977年に初演、最近では宙組本公演月組梅芸公演で上演された演目の全国ツアー版。全2幕。

 植爺脚本でも『風共』は『ベルばら』よりは出来としてマシだと私は思っていて、かつスカーレットというキャラクターが私はわりと好きなので、大変楽しく観ました。
 なんといってもまこっちゃんのスカーレット(礼真琴)がイキイキ楽しそうなのが良かったです。別に地でやっているわけではなくて、愚かで若くて元気な南部娘をちゃんと計算して演技で作っていたと思いました。丸顔なのと、気合が入りすぎたか化粧がやや濃く見えたのはご愛嬌。新公主演やバウ主演をこなしているとはいえヒロインはまた別格だと思うのて大変だったろうと思いますが、この学年でこういう経験をしておくのはとてもいいことだと思いましたし、すくすく伸びていってほしいなあ、と思いました。
 ただデュエダンはさすがにベニーに気の毒だったかな。まこっちゃんに相手を立てて美しく見せる娘役スキルがまったくなくて、ひとりで楽しそうに踊っちゃっているだけだったので、決してダンサーではないベニーはさらにつらかったかと思いました。こういうスキルも男役に戻ったときに対娘役相手に上手く発動する元になるから、勉強しておくといいんだけれどなあ。
 はるこメラニー(音波みのり)は天使でした。さすが!
 ベル(天寿光希)は私がちょっと期待しすぎちゃったかな、わりと普通に見えてしまいました。トリゴーリンが素晴らしすぎたからなあ…
 この演目も役はあまりないのですが、全ツにはちょうどいいとも言えますし、下級生にもけっこう綺麗ですらりとした子が多く、観ていて楽しかったです。

 さて、主役のバトラー(紅ゆずる)ベニーですが…ニンではないところで健闘していたとは思うのですが、しかし演技が迷走しているように思えました。ビジュアルは素敵だし歌も本当に良くなっていて素晴らしいのですが、「バトラーらしさ」を出そうとしすぎていて全体に芝居がかって見えてしまい、ハートが見えない気がしたんですよねえ…
 踏ん張っていただきたいところです。がんばれベニー!


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宝塚歌劇星組『REON in BUDOKAN~LEGEND~』

2014年12月03日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 日本武道館、2014年11月22日ソワレ(初日)。

 トータル・プロデュース、振付/SAM、構成・演出/石田昌也。真矢みき以来16年ぶりの現役生徒によるライブ・コンサート。全1幕。

 運良く友会でアリーナが当たり、行ってきました。とても楽しかったです。
 二度のコンサートで生徒のショーアップスキルも研鑽されているし、星組ファンも盛り上がり方、盛り上げ方を知っている。あんなに大きな空間が狭く感じられるくらいファンの愛情が詰まった空間になっていましたし、それを一身に受けてかつ跳ね返すパワーとオーラを持ったチエちゃんの姿に感動しました。
 私は卒業はそんなに意識しなかったかな。ただただすごいところに到達したなあ、と感じ入っていました。
 個人的には、ねねたんがカッコよくて可愛くて美しいのはもちろん、まっかぜーがやっぱりなんにもできないんだけれどそれでもより素敵になっていて、あとあーちゃんが色っぽくなっていていいぞ!と思いました。
 仕事をしていたのはダンサーのドイちゃんと歌手の夏樹くんでしたね。
 でもすっとんきょうなお衣装も着こなすメンバーのパワーが素晴らしかった公演でした。満足。

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