駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

柿食う客『発情ジュリアス・シーザー』

2013年03月03日 | 観劇記/タイトルは行
 青山円形劇場、2013年2月27日ソワレ。

 古代まで実際に起きたジュリアス・シーザーの暗殺事件を扱ったシェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』を、19世紀日本の明治維新、文明開化の時代に江戸言葉で話す女優の政治劇に変換。
 原作/W・シェイクスピア、脚色・演出/中屋敷法仁。『悩殺ハムレット』『絶頂マクベス』に続く女体シェイクスピア・シリーズ第3弾。全1幕。

 『遠い夏のゴッホ』での初・西田シャトナーに続く、初・中屋敷法仁でした。まあ『100万回生きたねこ』の脚本に参加していたそうで、それは観ていますし、話題は聞いていた人でしたが。これから来るのでしょうね、という期待を込めて、また結局存続されることになったんだっけ?という円形劇場にもまた行っておきたかったので。
 なかなかおもしろかったです。
 円形劇場らしいシンプルな舞台装置は花道を二本作っていて、歌舞伎の花道のように使われるのも作品に合っていました。全体に逆コロッセオみたいだったのもローマっぽくてよかったかもしれません。
 最初は女優さんには声量がないんだなあ、と思ってしまいましたが、キャシアスの渡邊安理はしっかりしていたので、さすがキャラメル・ボックスとも思い、個々の女優さんの力量の問題か、と思いました。
 とはいえか細くて聞きづらいというほどではなく、みんながんばっていましたし、薄っぺらくて細っこい宝塚歌劇の娘役を見慣れた目にはきちんとしたボリュームのある女体が楽しく眼福でした。映像ではなく舞台を観る目的のは、結局はこのボリューム感、そこに実体があることでどかされた空気の風圧を客席が受ける感じにこそあるのかな、と思いました。
 また、12人の女優が20人以上のキャラクターに扮するわけですが、男性キャラクターを演じるときに男装はしていても、髪は長いままだし胸もつぶしたりしていません。だから女優がそのまま演じた女性キャラクターとなんというか階層が近い。でもふたりの女性キャラクターはそれぞれ男性キャラクターの妻役で、でもそこに微妙な萌が生まれるというよりは、不思議な違和感が生まれていておもしろかったです。
 というのはカエサルの妻カルパーニアを演じた荻野友里はノーブルな貴婦人としてしゃなりしゃなりと鹿鳴館もかくやというドレス姿で現われるのですが、私には妙に男顔に見えてむしろ男優さんが女装しているかのように思えたのですね。
 そしてブルータスの妻ポーシャを演じた清水由紀はお面はとってもキュートで矢絣の着物に女袴もどこのハイカラ女学生といった風情で、言葉遣いも態度ももっとも男前のべらんめえ調。絶対ブルータスは尻にしかれている、てかやらせてもらえてない感じでした。
 その荻野友里が後半はオクタヴィアヌス役で男性キャラクターとして男装して出てくるとぞくっとするほど美しくて凄みのある色気があり、女顔の美形の青年にしか見えなくなるのがすごかったし、清水由紀はルーシリアスになって頬に刀傷つくって出てくるのですがこれがまたゾクゾクするイケメン剣士っぷりで怖いくらい。
 こんな転換が本当におもしろかったです。

 カエサルの川上ジュリアは「エラそうであること」が使命かなと思えたので、健闘していたと思います。
 ブルータス役の深谷由梨香が劇団の看板女優だそうですが、プログラムの写真は綺麗なのに舞台では寝癖まがいのぼさぼさアタマで顔がほとんど拝めず残念でした。顔も女体の立派な一部だと思いますよ。
 鉢嶺杏奈、岡野真那美、我妻三輪子も印象的でした。

 演劇としては、最初のうちはやはり台詞が難しいというか、誰と誰が何を争っているかが捕らえづらく感じました。航行の世界史の授業での知識と『暁のローマ』の知識でだけで行きましたからね私。
 ただ、要するに理屈ではなく人情に訴えるような形での政変だったのだ、だからこの時代のこんな言葉に置き換えるとわかりやすいのだ、とする観点には納得しました。発情、とはそういうことだったのです。
 そして結局そういう、理屈とか理念とかではないもののために争い殺し合いまでする政治とか男たちの愚かさを表すのに、女優を使うというのは正しいんだろうな、と思えました。男優がやったらあたりまえすぎてただしらけるのかもしれません。
 他の、もっと愛情・痴情のもつれみたいなドラマはまたどう観えるかわかりませんが。
 次回は『リア王』だそうです。演劇としてぴんとこないけれど(『ハムレット』は観たかったな、なんかわりと好きなんですよね)、機会があれば観てみようかとは思いました。

 ちなみにプログラムがA3と大きいのはデカすぎて邪魔ですが綺麗な写真が大きく見えるので百歩譲って認めるにしても、袋が小さすぎて指の穴があっていなくて持ちづらいのは仕事としてなっていなさすぎます。アフタートークで言えばよかった…
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宝塚歌劇雪組『ブラック・ジャック』

2013年03月03日 | 観劇記/タイトルは行
 日本青年館、2013年2月25日マチネ。

 謎の外科医ブラック・ジャック(未涼亜希)のメスさばきは神業と称えられているが、無免許である上に法外な治療費を要求して医師連盟を悩ます厄介な存在でもあった。しかし今日も彼が起こす奇跡を信じて治療室の扉を叩く者がいる…
 原作/手塚治虫、作・演出/正塚晴彦、作曲・編曲/高橋城、玉麻尚一。
 94年に花組で上演した『ブラック・ジャック 危険な賭け』から主題歌のみ踏襲した新作。全2幕。今回のサブタイトルは『許されざるものへの挽歌』。

 前作の東京公演はヤンさんがロンドン公演に行っていてミキちゃんが主演し、最後の三日間だけヤンさんが帰ってきて主演したんですよね。そのチケット取りは必死になったなあ。一応両方観ていますし、実況CD(大劇場、ヤンさん主演版)も持っています。懐かしい…
 評判が良く楽しみに行きました。同じく評判が良く楽しみに観に行って自分でも満足した中日公演と比べて、今回は私は「アレレ…」でした。簡単に言うと退屈しましたすみません。
 簡素だけれど十分なセット、モノトーンのお衣装、コロス、その駄洒落、みんな正塚ワールドですしよかったです。そして何度も書いていますが私は正塚作品のファンです。まっつの「かわらぬ思い」は鳥肌ものでした。でもダメでした。

 まっつは暖かい美声と優しい身振り、ざっかけない態度などが本当に原作漫画どおりのブラック・ジャック先生でした。このキャラクターは一般にイメージされるクールで冷酷な部分は実はそんなになくて、ただやや無口で無愛想なだけで、本当は人間臭いキャラクターなんですよね。その「普通さ」をとてもよく表現していると思いました。見た目はシャープでほっそりしているんだけれど、あのまるまっちい絵が浮かびましたもん。そのまんまシャープに作っていたヤンさんとは違うなあ、とおもしろかったです。とてもよかった。
 ピノコ(桃花ひな)に対する父性的とも言いきれない微妙なスタンスについてもとてもよかったと思いました。
 また、原作漫画はほとんどが16~20ページほどの小さなエピソードの連作であり、そういうものを拾ってきて掌編のようにして、結果的に主人公のキャラクターを一貫して見せよう、という構成意図はとてもよくわかりますし、作り方として正しいと思いました。
 不良少年カイト(彩風咲奈)とそのガールフレンドのエリ(沙月愛奈)なんてのは、いかにも原作にありそうなエピソードだなと思いました。ただサキちゃんに『はじめて愛した』でもやらせたような役を振っていないか?というのがやや残念だったかな。彼がきちんと稼いだお金でピノコの誕生日ケーキを買ってきたのには泣かされました。
 また今ひとつつかえないエリートSP(なのか?笑)のトラヴィス(帆風成海)なんてのも原作に出てきそうなキャラクターだし、山野先生(真那春人)も原作とは微妙に違うんだけどいかにもでよかったし、大澄れいの「お迎えでゴンス」も素晴らしかった。
 でも…要するに、バイロン侯爵(夢乃聖夏)とカテリーナ(大湖せしる)のパートが私にはワケわからなかったのです…

 原作にも幽霊とか宇宙人とかは出てきて、BJはその手術だってしたことがあります。だからそれはいい。
 ただ、とにかく説明不足に感じられて、私には何がなんだかわからなかったし、だから萌えられなかったのです。
 バイロンは不老不死ではなくただ寿命が長いだけ、それはいい。で、カテリーナはそもそもどんな症状なの? 交通事故で内臓損傷とかがひどいってことなの? 普通の臓器移植ではドナーの方が死んじゃうレベルで、だから誰も手術できなくて、でもバイロンは臓器なんかすぐ体内で複製できちゃうからどれだけとっても平気ってことなの? というか多分そういうことだと思いますけどそういう説明なかったよね?
 もちろんBJは患者の秘密を口外したり悪用したりする人じゃない。バイロンがたまたまピノコの存在を知ってピノコにも臓器をくれてピノコはそれでベッドから出られるようになってそれはよかったしもしかしたら原作を補完するものなのかもしれないけれど、でもその分ピノコの「普通でない度」が上がるのはメインの筋にもかかわる問題でまずくないか?と私には思えました。
 さらにバイロンが長寿でカテリーナはその臓器をもらっても普通のままで(なの?)短命で、いずれ別れなくてはいけないとか、かつて愛した人に似ていたとか生まれ変わりかもとか自分が長生きするために利用されるかもとかなんかいろいろ語られているのですが、私にはバイロンが何を心配しカテリーナが何を心配しているのかがよくわかりませんでした。
 しかもバイロンがどんな人でカテリーナがどんな人かほとんど説明されていないし、ふたりがどんな恋愛をしていたのかも語られないし、そんなんじゃ私はこのキャラクターたちに感情移入できません。その心配事も理解できないし共感できなくて、だからなんか解決したらしくてくるくる踊られてもポカーンだったのでした。
 私がともみんやせしるを好きでもきらいでもないせいもあるかもしれないけれど、でもキャラクターに対して不親切すぎませんかね? すべてを見せなくても要点は見せてるから前後や細かいところは類推してよ、という形にしたってあまりに見えなさすぎじゃないですかね? 少なくとも私には見て取れませんでした。だからこのパート、苦痛だったし退屈だったのです。

 しかも、ほとんど唐突にメインの筋らしく現われるBJ自身のドラマ、指が動かなくなるエピソードにこれは絡みます。
 原作にもこのエピソードはあって、執刀医の本間先生が手術中になんの気なしに言ったことを聞こえているはずのない間黒男少年は聞いていて覚えていて、覚えていたことすら忘れていたんだけれど暗示として発動して、結果的には暗示が解かれて症状もなくなる話です。
 これがピノコに重ねられるのは、BJが本間先生に作られたようにピノコもBJに作られたものだから、そしてBJもピノコもそういったことでもなければ生きられなかった、生きることを許されなかった者たちだから、とサブタイトルにも絡む、素晴らしいアイディアたと思うのですが…
 BJが手術や施療中になんの気なしに言った「この子は普通じゃない」という言葉をピノコは聞いていて覚えていて、それが自分が言われたことに重なって、ピノコが言うことで自分も似たことを言われたのを思い出して自分への暗示も解けて…ということなのですが、作中ではこれはかなりわかりにくくなってしまっていました。原作を知らない人には解決されたことがほとんどわからなかったのではないでしょうか。
 さらに空港職員(煌羽レオ。綺麗でコロスでも目立つし声が特徴的で好きだわー)たちがピノコを「普通じゃない」と言うことに対しBJが怒るくだりは、脚本の意図が舞台でうまく演出されていないように感じました。とってもまだるっこしくて、観ていて居心地が悪く苦痛なことこの上なかったです。
 あのくだりはもっとクリアに、かつコンパクトに描く必要がありました。空港職員が何を「普通じゃない」と言っているのか、それに対しピノコが「ピノコ普通じゃないの?」と聞く意味、BJが「普通じゃないとはなんだ」と怒る意味、のちに「そうだ、おまえは普通じゃないんだ」と言う意味、その二重の意味…それをすべて効かせて最大の泣かせどころにするに至っていなかったよもったいない。勝手に泣きましたけれどね。そこにバースデーケーキとお祝いの言葉、ピノコがなんとも素直に言う「ありがと」とBJが生まれ直す瞬間、がすべてかかってきているのに…!!!

 『ダンサ・セレナータ』もひどかったけれど、私は正塚先生はまだまだ低迷期を脱しきれていないと思います。次が原作ものであるのはかなり救いかも。設定とかだけ借りるんじゃなくて、ちゃんとストーリーを捕まえて、換骨奪胎して舞台化することに専念した方がいいと思います。今この人イチから作るの無理だマジで。大劇場公演はホントに失敗してほしくないし、ちゃんとした上でならまっつにまたBJ書いてあげてくださいよ、とは思います。
 ファンなだけに、つらいわ…

***

 ちなみに、ごく個人的に、私は原作の大ファンでもあるのですが、ピノコに対するスタンスが上手く持てないでいる自分に今回気づけました。みんなが言うように「ピノコになりたい」なんて口が裂けても言えないな、と思ったのです。
 私がそもそも子供が苦手だからかもしれない、とも思ったのですが…これはなんなんだろう。
 ピノコって、自分ではオトナのレレーだと思っていて、確かに普通の幼児より知識はあるんだけれど、でも姿は子供だしちゃんとした大人ではありえない。これってかなりつらい境遇だと思うんですよね。
 私はこの苦しさを背負える自信がないから、ピノコになってBJのそばにいたい、なんて思えないんだろうな、と思いました。
 そしてBJのピノコに対するスタンスも、完全に父性的ではないけれどもちろん性的でもないわけで、有能で信頼できる助手としては重用しているし同胞愛みたいなものも持っていてくれているかもしれないけれど、私はそれは物足りないし、小さきものとして保護されたり愛玩されたりすることには抵抗を感じるタイプなもので、どうもいつも「ピノコいいなー」とは思えなかったんですよね。可愛いなとはもちろん思うのだけれど…
 大きな人類愛を扱う作品だから恋愛色が弱いのは当然なのかもしれないけれど、私はそこを寂しく思うタイプなのでした。でもとにかくホント傑作。刊行中の大全集、買ってます。


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