シアターコクーン、2013年3月13日ソワレ。
室町将軍と鎌倉公方を奉じる結城家が争ってから三十余年、犬塚番作(佐藤誓)は息子の信乃(阿部サダヲ)とともに武蔵国大塚で暮らしていた。落ち延びるときに番作は足利家の名刀・村雨を預かっていたが…
原作/滝沢馬琴、台本/青木豪、演出/河原雅彦。全2幕。
私は笑いに厳しいので、阿部サダヲが出てきただけで笑う観客にのっけからちょっとうんざりしました。まだおもしろいことをなんにも言っていないしやっていないのに、ただそのキャラだけで笑う気満々な安さがイヤなんですよ…
そのせいもあって信乃のキャラクターを私がつかみ損ねた部分もあるかもしれませんが、でも立て方も弱かったと思います。そしてこれがけっこう尾を引きました。
主人公であるらしいこのキャラクターが、なんだかへっぽこなへたれ男にしか見えないのに、やたら荘助(瀬戸康史)にかしずかれているし、やたら美人の許嫁・浜路(二階堂ふみ)に一方的に惚れられてるし、厳格そうな父親が息子にいろいろ任せてさっさと自害しちゃうし、「え? なんで? この人のどこがそんなにすごいことになってんの? 誰かちゃんと説明して?」って感じになってしまい、ストーリーについていきづらく感じてしまったのです。
その後の唐突な剣豪設定にもびっくりしたし…それこそ阿部サダヲのキャラじゃないじゃん、だったらちゃんとエピソード立ててキャラを説明してほしかったわー。なのにただキャラだけでギャグ重ねていくのやめてほしいわー。
なので笑いにもややスベリ感を感じたまま、一幕は八犬士のうち六人揃ったところまでで幕。
ううむ…と思っていたのですが、二幕は怒濤の展開でもあり、ぐぐっとおもしろかったです!
私も『南総里見八犬伝』については、犬の子を産むお姫様とそれが珠になって散って八人になってどーのこーの、ということくらいしか知らなくて、要するにその「どーのこーの」という部分はあまり重要でないというか荒唐無稽すぎるというか、なんでしょうね。むしろそれ以前の設定の方が大事で有名。だからこの舞台も、八犬士が揃って以降はオリジナル展開なんだと思われます。そしてとても現代的でした。
プログラムによれば、震災以降だからこそ荒唐無稽な話がやりたかったし、震災以降だからこそ単純なハッピーエンドの話にはしたくなかった、ようです。さもありなん。
八犬士が揃って、お城に向かおうとなるやいなや、なんと毛野(中村倫也)が裏切り始めてさっさと三人を斬り殺してしまいます。早ッ!
このキャラクターは女装の男性で、普通にしていても女と見紛う美青年で、でもめっぽう腕は立つという、とてもわかりやすい設定のキャラクターです。昔といえど萌えのパターンって変わらないんだな、ということが実によくわかります。
今回はさらにその性癖というか性指向については、要するにゲイだということにしたようです。そして虐げられている。ゲイだからこそ、狸の化け物がとりついた女と結託し、人を滅ぼしこの世を獣のものとしようとしたわけですね。
獣の方がずっと心が優しいから。食べていく以上に何かを殺すことも、壊すこともしないから。愚かな人間のように、大義とかいうワケのわからないもののために争い合ったりしないから。
争い合い戦い合い殺し合う人間たちは滅んだ方がよくて、獣たちの世になった方が世界は平和になるからです。
ゲイと女こそ平和至上主義者、剣を振るうばかりの男たちに反旗を翻す、これはそんな物語になっていたのでした。
親兵衛(太賀)が実は幼い頃に殺されかけ捨てられた御曹司だとか、未来が見える特殊能力がある純朴な天才少年で、でも自分の未来だけは見えないとかも、いかにもな設定で萌えでしたが、そういう大義の旗印になる大将すらあっけなく殺されます。
でも…まあお話としてはやはり主人公側の勝利に終わるもので、常にいいところを持っていく荘助が信乃のピンチを救って獣たちを倒します。
珠飾りは打ち捨てられ、大義も守るべき家も失って残った三人の男たちは、それでもなんとなくご機嫌に消えていきますが、そこには何があるというのでしょう…
そんな、決して大団円よかったねハッピーエンドではないラストが、とても心にしみました。
逆説的に言えば人は生きているだけで悪なのであり、人こそがもっとも地球に優しくない存在なのであり、人には獣と違って知恵も心もあるけれど、それがたとえば大義とかあるいはもっと違う名前のついた何か抽象的なもののために人を殺し合わせたりもする。それは理想的ですばらしいとも言えるし、愚かで空しいとも言えるのだ…ということなのだと思います。
そういうことをつきつけ、そしてあえて回答は出さない作品なんだなと思いました。
それにしてもケレン味たっぷりの脚本と演出、てんこもりの殺陣に大芝居、歌舞伎ばりの名乗りと、もっと大きな明治座とか新橋演舞場でやってもいい演目なんじゃないかなと思わなくはなかったです。シアターコクーンって、もっと緻密なものが似合う空間だと思うからさ。
太鼓(はせみきた、小泉謙一、柳川立行)も素晴らしかったです。
津田寛治はやや役不足だったかも。田辺誠一は胡散臭さがよかったかもしれません(^^;)。
女性キャラクターを何人も演じ分けた内田慈がまた素晴らしかったです。
室町将軍と鎌倉公方を奉じる結城家が争ってから三十余年、犬塚番作(佐藤誓)は息子の信乃(阿部サダヲ)とともに武蔵国大塚で暮らしていた。落ち延びるときに番作は足利家の名刀・村雨を預かっていたが…
原作/滝沢馬琴、台本/青木豪、演出/河原雅彦。全2幕。
私は笑いに厳しいので、阿部サダヲが出てきただけで笑う観客にのっけからちょっとうんざりしました。まだおもしろいことをなんにも言っていないしやっていないのに、ただそのキャラだけで笑う気満々な安さがイヤなんですよ…
そのせいもあって信乃のキャラクターを私がつかみ損ねた部分もあるかもしれませんが、でも立て方も弱かったと思います。そしてこれがけっこう尾を引きました。
主人公であるらしいこのキャラクターが、なんだかへっぽこなへたれ男にしか見えないのに、やたら荘助(瀬戸康史)にかしずかれているし、やたら美人の許嫁・浜路(二階堂ふみ)に一方的に惚れられてるし、厳格そうな父親が息子にいろいろ任せてさっさと自害しちゃうし、「え? なんで? この人のどこがそんなにすごいことになってんの? 誰かちゃんと説明して?」って感じになってしまい、ストーリーについていきづらく感じてしまったのです。
その後の唐突な剣豪設定にもびっくりしたし…それこそ阿部サダヲのキャラじゃないじゃん、だったらちゃんとエピソード立ててキャラを説明してほしかったわー。なのにただキャラだけでギャグ重ねていくのやめてほしいわー。
なので笑いにもややスベリ感を感じたまま、一幕は八犬士のうち六人揃ったところまでで幕。
ううむ…と思っていたのですが、二幕は怒濤の展開でもあり、ぐぐっとおもしろかったです!
私も『南総里見八犬伝』については、犬の子を産むお姫様とそれが珠になって散って八人になってどーのこーの、ということくらいしか知らなくて、要するにその「どーのこーの」という部分はあまり重要でないというか荒唐無稽すぎるというか、なんでしょうね。むしろそれ以前の設定の方が大事で有名。だからこの舞台も、八犬士が揃って以降はオリジナル展開なんだと思われます。そしてとても現代的でした。
プログラムによれば、震災以降だからこそ荒唐無稽な話がやりたかったし、震災以降だからこそ単純なハッピーエンドの話にはしたくなかった、ようです。さもありなん。
八犬士が揃って、お城に向かおうとなるやいなや、なんと毛野(中村倫也)が裏切り始めてさっさと三人を斬り殺してしまいます。早ッ!
このキャラクターは女装の男性で、普通にしていても女と見紛う美青年で、でもめっぽう腕は立つという、とてもわかりやすい設定のキャラクターです。昔といえど萌えのパターンって変わらないんだな、ということが実によくわかります。
今回はさらにその性癖というか性指向については、要するにゲイだということにしたようです。そして虐げられている。ゲイだからこそ、狸の化け物がとりついた女と結託し、人を滅ぼしこの世を獣のものとしようとしたわけですね。
獣の方がずっと心が優しいから。食べていく以上に何かを殺すことも、壊すこともしないから。愚かな人間のように、大義とかいうワケのわからないもののために争い合ったりしないから。
争い合い戦い合い殺し合う人間たちは滅んだ方がよくて、獣たちの世になった方が世界は平和になるからです。
ゲイと女こそ平和至上主義者、剣を振るうばかりの男たちに反旗を翻す、これはそんな物語になっていたのでした。
親兵衛(太賀)が実は幼い頃に殺されかけ捨てられた御曹司だとか、未来が見える特殊能力がある純朴な天才少年で、でも自分の未来だけは見えないとかも、いかにもな設定で萌えでしたが、そういう大義の旗印になる大将すらあっけなく殺されます。
でも…まあお話としてはやはり主人公側の勝利に終わるもので、常にいいところを持っていく荘助が信乃のピンチを救って獣たちを倒します。
珠飾りは打ち捨てられ、大義も守るべき家も失って残った三人の男たちは、それでもなんとなくご機嫌に消えていきますが、そこには何があるというのでしょう…
そんな、決して大団円よかったねハッピーエンドではないラストが、とても心にしみました。
逆説的に言えば人は生きているだけで悪なのであり、人こそがもっとも地球に優しくない存在なのであり、人には獣と違って知恵も心もあるけれど、それがたとえば大義とかあるいはもっと違う名前のついた何か抽象的なもののために人を殺し合わせたりもする。それは理想的ですばらしいとも言えるし、愚かで空しいとも言えるのだ…ということなのだと思います。
そういうことをつきつけ、そしてあえて回答は出さない作品なんだなと思いました。
それにしてもケレン味たっぷりの脚本と演出、てんこもりの殺陣に大芝居、歌舞伎ばりの名乗りと、もっと大きな明治座とか新橋演舞場でやってもいい演目なんじゃないかなと思わなくはなかったです。シアターコクーンって、もっと緻密なものが似合う空間だと思うからさ。
太鼓(はせみきた、小泉謙一、柳川立行)も素晴らしかったです。
津田寛治はやや役不足だったかも。田辺誠一は胡散臭さがよかったかもしれません(^^;)。
女性キャラクターを何人も演じ分けた内田慈がまた素晴らしかったです。