駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『誰がために鐘は鳴る』

2011年02月14日 | 観劇記/タイトルた行
 宝塚大劇場、2010年11月12日ソワレ(初日)、21日マチネ、22日マチネ。
 東京宝塚劇場、2011年1月1日ソワレ(初日)、2日ソワレ、3日ソワレ、12日マチネ、16日ソワレ、27日ソワレ、30日マチネ(前楽)、30日ソワレ(千秋楽)。

 1937年、大学でスペイン語の講師をしていたロバート・ジョーダン(大空祐飛)は、国際義勇軍に加わる決意を固めてスペインへ赴く。マドリードに到着したロバートは、共和制府軍情報部のゴルツ将軍(寿つかさ)の指揮下に入り、最初の任務である列車爆破を成功させる。さらに彼は、グアダラーマ山中へと向かうが…

 それぞれの初日に感じたことなどを書いたり、マリア論などをまとめてみたり、観劇のたびにツイッターでつぶやいているので、もはや何を書いたものやら…
 となってしまうのが贔屓の公演なのですが、一応まとめておきます。

 どこかでも書いたかと思いますが、古風ではあると思います。
 刈り込んで一幕ものにしてもよかったという意見もけっこう見ました。
 でも私は何しろ柴田作品スキーなので(千秋楽の出で一番に楽屋から出られたのが柴田先生でした。おもいっきり拍手してしまいましたよ)全然この形で十分でした。
 ショーアップ部分のバランスもいいと思いましたし、繰り返されるラブシーンもどれもよかったと思います。
 戦闘シーンがあるわけではなかったので、ややもすると単調な部分はあったかもしれない。そして何より下級生どころか中堅どころに役がなかったのは致命的に問題だったとは思います。
 主演者のファンとして必要以上にそれは申し訳なく思ってしまう。
 けれど、総体としては、再演が望まれてきたのも納得の、再演されるべき、名作、佳作だったと私は思ってしまうのでした。

 他国の戦争に義憤から首を突っ込むアメリカ人、という意味では『カサブランカ』のリックと同じでしたが、ユウヒはきちんとそれとは違う人物としてのロバートを作り上げていました。これもどこかで書いたかと思いますが、私はまずそのことになんと言っても感動しました。
 リックと比較するのは本当はナンセンスなんだけれど、ロバートはリックより若いし、ある程度きちんとした家庭で育てられたのであろう明るさがあるし、大学の講師を務めていたことからもわかるようにきちんとした教育を受けていて、より教養がある人間です。逆に言うと青いし、したたかさには欠けるかもしれません。
 より純粋に、仲間を殺したことをひきずり、死ぬかもしれない任務に悲劇的に身を投じていきます。グレて酒場を起こしてクダ巻くなんて考えられない人です(^^;)。
 そういう若さ、青さ、明るさ、まっすぐさを、ユウヒは見せてくれていました。
 それは恋愛の点でも、マリアに対しても同様でした。
 マリアを包み込む包容力、大きさ、あたたかさ…というものももちろん感じられたけれど、上から目線というばかりではありませんでした。恋に落ちてからは、けっこう溺れて、甘えて、心の支えにしている。そんな弱さ、苦しさも、よかったなあと思うのです。

 プロローグ。
 何度も観劇すると、物語の終わりの場面からループするようにつながっていることがよくわかります。
 プロローグは死んだロバートが天国で見る夢のようでもあり、物語全体が天国にいるロバートが回想する人生のようでもあります。
 機関銃の傍らで落命したであろうロバートが、機関銃の傍らで目覚め、身を起こし、歌い始める。ライトが当たり、拍手が入る。美しい幕開きです。
「悲しみはもう忘れて、僕に手を預けなさい…」
 歌詞はロバートがかつてマリアに歌ったものですが、今は神様がロバートに歌うもののようでもある。ロバートはひとり、天使たちに囲まれて天国にいますが、そこへマリアの幻想が現れる。あるいはロバートの死後の何十年か後に、天寿をまっとうしたマリアが天に召されてきて、ロバートと再会する。マリアを見つけたときの、ロバートの笑顔の輝きといったら!
 一度かなり上手のかなり前列で見られたときに、銀橋で下手本舞台を振り返って顔を輝かせるロバートを目にしたとき、もうそれだけで泣けました。そこには確かな愛がありました。
 ここのデュエットダンスは今DVDを見るとそのあっさりさに驚くくらい、東宝では愛情細やかになっていたと思います。つなぐ手、引き寄せる手、交わし合う微笑み…愛にあふれていました。

 続くチャリティー・ショーと物語の導入はすばらしい。
 そしてここの京さんも本当にすばらしい。本当はピラールよりもガートルードがニンの人ですよね。
 スピーチのためにロバートが現れるところで拍手が入るようになったこともうれしかったな。プロローグの役名は、正確にはロバートではないとも思っていたので、ここで改めて主役登場に拍手をしたかったのです。だってまゆたんはチャリティーのショースターとして登場したときと、アグスティンとして登場した「♪グアダラ~マ~」のときと両方で拍手もらってたんだもん。

 ピラールに酒を持ってくるように言われて、マリアが初めて現れるシーンは、登場の音楽と、続くBGMが本当にいい。柴田作品では、植田歌舞伎の登場音楽とはまたちがうのです。絶妙にロバートの心情を表現しています。
 こんなところに、こんな少女が…という驚きと、その清らかさ、明るい輝きへの驚き。
 優しく「ありがとう」と会話しながらも、胸が詰まって言葉がうまく出てこない感じ。ただひたすらに目が離せなくて、目で追ってしまう感じ。
 つらい目にあったマリアですが、事件を棚上げにして自分の心を守っているのかもしれず、また死ねなかったこと、死ななかったことに表れているとおり、生き延びる強さを意外にも持っていたこと、その健やかな明るさが、ロバートを捕らえたのかもしれません。
 死を予感していたロバートの前に現れた天使のような、救いの女神としてのマリア…と、あまり聖なるものに祭り上げるよりはむしろ、生きる強さ、命の炎みたいなものを見たのだ、としたい気が、私はしています。

 第一夜。
「君が好きになってしまったようだ」
 と言って、キスしようと顔を近づけるロバートが本当に素敵。
 でもマリアは逃げて、告白を始める。最初のうちはロバートは話半分に聞いているように見えます。通りいっぺんの反応や慰めの言葉を口にしているあしらおうとしているようにも見える。しかしマリアが真剣で、本当に傷ついているのを感じると、事態の重さを理解し、そして本当にそう思っていたので、
「それは何もなかったことと同じだよ」
 と言う。そして、そのせいで愛さないと言うことはない、と言える。ロバートはそんな人間です。
 キスの仕方を知らないと言うマリアに、
「難しいことではないさ」
 と笑って腕を広げてマリアを誘うロバートさんが好き。優しいわ、やらしいわ。マリアはその腕に飛び込みかけて、立ち止まる。そのまま向かったら、鼻が邪魔になる気がするから。ずっと不思議に思っていたから。
 ロバートがやってみせてくれて、大丈夫なんだってわかって、
「もう一度!」
 と今度は自分からキスしてみるマリアが大好き。可愛い。まっすぐですこやかで、まだまだ素直な子供です。だから「君は小兎」です。ロバートの心には愛しさがあふれます。

 ちなみに私はこの夜はふたりはここで別れたんだと思っています。
 翌朝ふたりが手をつないで現れたのは、朝の散歩の帰りだから。マリアは朝早くに目覚めて、ずっと穿いていなかったスカートを引っ張りだしてきて着て、ロバートを起こしに言って、朝の散歩に誘ったのだと思うのです。
「もう兎さんになっちゃったのかい?」
 は恋人同士になったのか、というくらいのことです。ここのフェルナンドのクールなつっこみも好きだな。言葉少なな役、というのは難しいと思うのですが、今回大ちゃんのお芝居はとてもよかったなと思いました。じっとたたずんでいるだけ、やりすぎない、でも存在感は出す、ということが、できているように見えました。

 エル・ソルド訪問からの帰り道。
 マリアの過去をまた少し聞かされて、涙するマリアを本当にかわいそうに愛しく思って。でもマリアはもう「死ななくてよかったわ」と言えるようになっている。そして、ふたりの心臓が同じリズムで打ち、ふたりが分かちがたい存在になっていることをさらりと言う。
 このときにロバートは真実マリアを愛したのかもしれません。自分がこの計画で死ぬかもしれないことを、彼女をも死なせてしまうかもしれないことを、確信したから。そんなことをつゆ知らずに「あなたは私で、私があなたなの」とマリアが言うから。
 だから「マリア」「なあに」の三連発なのです。
 「胸の高鳴り」の二重唱が最後まで不安定だったのはご愛敬。その後の「寝袋と巻き煙草」のかわいらしさといちゃいちゃっぷりはすばらしすぎました。
「いいねえ、最後のが一番気に入った」
 と言うロバートのおっさん臭いため息がたまりませんでした。

 バレンシアの場面では、ピラールと背中合わせになってくるりと現れるりりこの歌がどんどんどんどん良くなっていって圧巻でした。ユウヒの闘牛士としての歌は、心情を歌う芝居歌ではないので、みっちゃんあたりに任せてもよかったんじゃないんかなと思いつつ、実は毎回けっこう楽しみに聞いていました。声がひっくり返ることとかは意外にないので、聞いていて楽しいというのもありますが。それにしてもかっこいいよねえ…

 パブロと口喧嘩になるシーンは、初日ではかなり台詞をおっかぶせていて、そのタイミングの方がロバートがカッとなる感じが出ていていいなと思っていたのですが…
 「♪いいともロベルト、やろうぜロベルト」の歌と振りはいかにも古風なんだけれど、自分は嫌いになれません…

 騎兵隊が通過するときに銃を構えるロバートさんの、足の開き方がカッコ良すぎでした。
 岩棚に腰掛ける姿がカッコ良くて、彫像にして花のみちに置きたいのと同レベルでした(^^;)。なんか決まってんだよねえ、膝とか直角でさあ…

 二幕の幻想の結婚式の場面は、アグスティンの幻想だと思うことにしました私は(^^;)。
 ここも後半はマリアやロバートに拍手が入るようになりましたねー。
 そのあとのアグステインの「♪俺はゲリラだ」もよく聞くとせつない歌詞で、彼が山の頂上で出会った光というのはマリアのことだと思うのですが、「そのまばゆさに目を閉じた」と歌ってしまっていて、近づいたことも想いを気ぶりにも出さなかったことがよくうかがえます。
 脱出後も彼は遠巻きにマリアの面倒を見るだけで、意外とラファエルあたりがマリアをさらってしまうんじゃないかいな、と思わせるような奥ゆかしさで、彼のことが心配です…ま、フラメンコダンサーはモテるだろうからいいか…

 ロバートのローサに対する「身が持たねえってとこだな、色男」っぷりが大好き。
 ロバートのラグランハの人たちへの丁寧な物腰が大好き。

 パブロにダイナマイトを台無しにされて、ピラールにキれ、マリアに慰められるロバートが好き。

 アグスティンとの会話のくだりは、初日はもっとソフトだったと思うんだけれど、だんだん男同士という面に引っ張られて、ややぞんざいな口調になっていったのが、私としては残念だったかな。ま、ヘミングウェイの想定からすると全然紳士的なんだけどさ。
「ありがとう、嬉しいよ」
 の熱く固い握手の長さ、見つめ合いは千秋楽にはもちろん頂点でした。
 その後のアンセルモじいちゃん告白タイムは、同伴した知人が軒並みウケていて嬉しかったです(^^)。

 最後の夜、ロバートが寝袋を敷くのは、当方では岩棚の上になりました。
 移動がちょっとわずらわしそうだたったけれど、
「いいよ、どうぞ」
 といいながら岩棚にもたれるポーズが美しかったので、DVDに残らないのが残念です。
 私はこの夜ふたりが初めて結ばれたのだと思っています。
 だから、マリアが「その寝袋の中で眠りたいわ」と言ってきたのに、大胆だなと思ったり、言葉どおりの意味なのかなと思ったりしたのだろうし、「ピラールがそうしろって言ったの」という言葉に、なあんだそういうことか、と笑ったのでしょう。
 つまり、ここまでは肉体関係がなくても、愛し合いされていることを確かめあった時点でマリアは自然と「あなたの奥さんになったら」と言うわけで、ロバートも自然にアグステインに対し「俺はマリアと結婚するつもりだ」と言えるわけです。何かに対する責任とかそういうことではなくて、ただ愛しているから。愛を確信しているから。
 過去の傷について、「私を奥さんにしてくれる?」と泣くマリアは、卑屈なのではない。それに対してロバートも、なんの迷いもなく「君はもう僕の妻だ」と言える。
 その上で初めて、ロバートはマリアを抱くのです。
 「今、今、今…」のあと、舞台奥にマリアを誘うロバートが好き。紗幕の奥に引っ込むためでもあるけれど、花嫁を新床に誘う新郎のようでもあるからです。
 ロバートはマリアの首筋に口づけ、マリアは身をそらせます。これが柴田先生ならではの性愛の表現なのだと、私は思うのです。

 橋の爆破が成功したとき、意外に喜ぶロバートさんの背中が好きです。腰のところで両手で小さくガッツポーズしているの。これもDVDにはないんだよね、残念。
 セット崩しとしてもすばらしいし、やはりロバートさんとしても成否は半々で不安だったんだと思うしね。

 クライマックスのミザンセーヌ(ここでは登場人物の導線、の意味で)のめちゃくちゃさはもう仕方がないことにしよう。
 マリアの絶叫は本当にせつなくて悲しくて、毎回涙を誘われました。
 よろよろと立ち上がるマリアを愛おしそうにみつめるロバート。
「別れるんじゃないから、さようならは言わないよ」
 と明るく言うロバート。
「振り向くんじゃない!」
 と顔を背けるロバート。
 機関銃を運んでくれたプリミティボに、こんなときなのに「ありがとう」と言う優しさ。
「さようなら、アグスティン。あの坊主頭を頼むよ」
 と言うときの、万感の想い。
 気が遠くなりかけながら、思い起こすのは、故郷のことでもなく、愛するスペインの未来でもなく、ただただマリアの笑顔だけ。
 不敵なようにも、また幸せなようにも見える笑顔を残して、ロバートは機関銃を撃ち続けて、死んでいきます。
 東宝から、フィナーレとのつなぎに鐘が鳴るようになりました。弔鐘なのかもしれない、天国の訪れを表す幸せの鐘の音なのかもしれない…

 フィナーレも素敵でした。
 トリオの銀橋渡りのあとのロケットがけっこう好きです。
 そしてグレイッシュなピンクのスパニッシュお衣装での、まゆたん渾身のショースターっぷり。
 そしてせり上がる後ろ姿、背中には羽、「私、飛べるんだ」と言ったマタドールの登場…!
 大階段を降りてくる六人にスポットが次々当たっていくところは、DVDはただ正面から引いて撮っていてほしかったなー。ここは大空さんのアップなんかいらないんだよー。
 逆に銀橋でひらりと笑う笑顔は押さえておいてほしかったなー。
 上手の端でやる「闇広」には千秋楽では拍手が入り、そのあとの手を引っ張りあうくだりでふたりが微笑みあっていて、もう本当に胸が震えました。
 デュエットダンスのお衣装も本当に素敵で、組む前に離れている間も心のつながりを感じて、不思議な空間でした。リフトはやっぱりアレだったけれど…そして銀橋ラストのキメは、スミカは横顔を見せてほしかったけどな。完全に顔を見せないのは寂しかったので。男役だけが顔を見せていればいいってものではないのですよ。
 パレードの白いお衣装も、肩の独特のデザインなど、見慣れればいつしか好きになっているのがコワいです(^^;)。
 シャンシャンも初日は「ホントにシャンシャンだよ!」と思っていたものでしたが、美しい音に心が洗われました。

 うん、いい公演だったな。
 作品に恵まれてるなあ、よかったなあ。

 ちなみに千秋楽の出はまゆたん、みっちゃんと揃い踏み。
 黒縁メガネでニコニコで、誰が言ったかお洒落エリートスポーツ選手みたいでした。
 まゆたんがエクステつけて長髪で、ハリウッド女優みたいで。軍服風のボタンが付いた黒のロングコートのみっちゃんが、お騒がせセレブ夫婦のSPみたいに見えました。
 まゆたんを抱き寄せて「花もよろしくねー」なんて言っちゃって、ホントに寒かったけれど、そのときだけは寒さを忘れましたよね…
 星原先輩も生徒監のお父ちゃんに同伴されて大泣きで、お花はスミレで…もらい泣きしました。卒業おめでとうございました。

コメント
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