作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv32511/
絶頂期のように歌えなくなったディーバ、マリア・カラス(ファニー・アルダン)は、最愛の男で海運王のオナシスにも捨てられ、失意の中でパリの高級マンションの自宅に引きこもりの日々を送っていた。そこへ、長年の友人であるプロデューサー・ラリー(ジェレミー・アイアンズ)が企画を持ち込んでくる。それは、歌声はカラス全盛時のものを映像に被せ……つまり口パク……カラス主演でオペラ「カルメン」の映画を撮る、というもの。
最初は鼻であしらうカラスだったが、ラリーの熱心な口説きにほだされ、次第にヤル気になる。久しぶりの現場復帰は、彼女に生きる力を甦らせる。そんな生き生きとしたカラスを見て、ラリーも幸せを感じるのであった。
しかし、全てを撮影し終え、完成試写会も行った後になって、カラスは公開中止をラリーに求めるのであった。
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◆ゼッフィレッリ亡くなる。
もう随分な高齢だから、いつ訃報を聞いてもおかしくないとここ数年は覚悟していたけれども、実際にその日がやって来ると、やっぱり寂しいし悲しかった。
私が映画を見るようになったのは、ゼッフィレッリのおかげといっても良いくらい。映画を見て、本当の意味で“感動”を覚えるという体験をしたのは、ゼッフィレッリの『ロミオとジュリエット』が最初だったから。まだ、10代だった私にとって、あの豪華絢爛たるセットと衣裳、哀愁を帯びた音楽、そして美しい主演2人が繰り広げる恋愛メロドラマの世界は、まさしく“別世界”だった。ビデオによるブラウン管での視聴だったけど、約2時間という短い間とはいえ、私は図らずも“異空間”に連れて行かれたのだ。あのときの体験がなければ、映画を見ることの楽しみなど分からないままだったかも知れない。
だから、私にとって、ゼッフィレッリは特別な人なのよ、、、。一度も会ったこともないのに、特別なの。直接会えなくても、この世のどこかにいるのだと思えるのと、もうこの世のどこにもいないのだと思い知らされるのでは、やっぱり心の持ちようがゼンゼン違う。
そんな寂しさを紛らわすべく、心の小さな穴を埋めるべく、そして、ささやかな追悼の思いを込めて、彼の作品を改めて見てみた次第。
◆ゼッフィレッリのカラスへの愛
本作は、もちろん公開時に劇場で見ているが、その後、まったく再見していなかった。BSでオンエアしているのをチラ見したことはあったけれど、本当にチラ見。今回、ゼッフィレッリ作品の再見に当たって本作を選んだのは、もう一度ちゃんと見たいと思いながら、何となく見ないままになっていたから。
で、オープニングでいきなり「こんなだったっけ、、、?」とビックリ。いきなりロック全開で、カラスが主人公の映画と思えぬ幕開けなのだ。そして、ロンゲを後ろに結わえたジェレミー・アイアンズの登場。え゛ー、こんな髪型してたっけか?? こういう髪型、正直言って彼は似合わないね。彼の演じたラリーは、ゼッフィレッリの投影された役柄であることは誰の目にも明らか。作中でもラリーはゲイだしね。
とにかく、ラリーは、扱いが難しいカラスのあしらいが非常に上手い。きっと、実際にゼッフィレッリとカラスの関係も似た感じだったのだろう。ゼッフィレッリの自伝、タイトルもまんまの『ゼッフィレッリ自伝』 にも、カラスのことはかなりのボリュームで描写があったように記憶している。
ちなみに、この自伝は結構面白いし、読み応えもある。いささか総花的ではあるけれど、映画はもちろん、オペラ演出でのあれこれ、もちろん彼自身の出自や生死を彷徨う事故等々、もりだくさん。私は、この本を10年くらい前にamazonで買ったんだけど、絶版になったのか今やとんでもない値段がついていてビックリ! まあでも、面白いから未読の方には図書館ででも借りて、是非読んでみていただきたいわ~。
……ともかく、カラスは、ラリーを信頼して口パクでの復活を心に決める。この口パク映画の撮影シーンがまた豪華で目の保養になる。この辺は、さすがゼッフィレッリ。彼の演出した「カルメン」は、クライバー指揮による舞台でのライブ映像のDVDがあるが、この絢爛豪華な舞台を彷彿させるシーンがあちこちにあり、見ているだけで楽しい。
面白いのは、ラリーと若い恋人マイケルの描写。マイケルは画家の卵で、才能もあるらしい。カラスをマイケルのアトリエに連れて行って、そこでカラスは彼の絵にインスパイアされたりもする。ベッドで2人が全裸で横たわっているシーンとかもあり、こういう描写を入れたゼッフィレッリの心理を深読みしたくなる。
カラスの孤独や苦しみの描写はあまりなく、前半にちょっとあるくらいだが、それでもファニー・アルダンの素晴らしい演技で胸打たれる。歌うことが全ての人にとって、歌えなくなることがどれほどのものなのかは、もう想像を絶する。だから、口パクでも復帰してエネルギッシュに撮影に取り組むファニー・アルダン演ずるカラスは、見ている者にとってホッとさせられる。これは、きっと、ゼッフィレッリ自身がこの映画を撮ることで、カラスを失ったことによる心の傷を癒やしているのだろうと感じる。
ファニー・アルダンの衣裳がまた素敵。カラス自身が実際にシャネルを愛用していたそうだが、本作でもカラスの衣裳はシャネルが提供しているとのこと。本当に、どれも実にファニー・アルダンに似合っていて美しい。こういうところにもゼッフィレッリのカラス愛を感じるわ。
終盤はいささか呆気なく、まあ、その辺が物足りなさを感じる人もいるみたいだけれども、私はゼッフィレッリ映画は酷評しない主義なので、これはこれで良いと思う。実際、カラスの死には謎も多く、ゼッフィレッリ自身は殺されたと主張しているくらいだから、この後のことは余韻持たせた描写にしたかったのだろう。そうでないと、あまりにもバッドエンドになってしまうもんね。
◆再びゼッフィレッリについて。
それにしても、本当にゼッフィレッリは映画でもオペラでも数多の超一流アーティストたちと仕事をしていて、ただただ溜息ものである。クライバー&ゼッフィレッリの舞台なんて、この目でライブを見られたら死んでもええわ、、、と思っちゃう。ああ、この舞台を見られた人たちがただただ羨ましい。DVDで見たって、、、ねぇ。まあ、ライブじゃクライバーは後ろ姿(つーか頭の上の方だけ)しか拝めないから、彼の麗しい指揮っぷりが前から映っているのを見られるのはDVDならでは、とも言えるか。クライバーの信者としては、やっぱりそのお姿を見たいものだから。この頃のクライバーは、ホントにセクシーなのよねぇ、、、。
前出の自伝には、きら星のごとく世界中のスターの名前が登場する。一番印象に残っているのは、エリザベス・テイラーとリチャード・バートン夫妻のエピソード。ゼッフィレッリは、この夫妻による「バージニア・ウルフなんかこわくない」の舞台版の演出を手掛けたのだが、そのときのエピソードが凄まじいのだ。もう、このお話のまんまのスポイルカップルだったらしい。たしか、ゼッフィレッリも見ていてウンザリしたみたいなことが書いてあったような、、、。
ちなみに、ゼッフィレッリが監督したこの夫妻による『じゃじゃ馬ならし』でも、まさにそう。こんなんで何で結婚しようと思ったのか、謎すぎる。ま、私はこの夫妻はどっちもあんまし好きじゃないから、さもありなん、という感じだが。
本作が、ゼッフィレッリにとって映画の遺作ということになったようだけど、私が一番好きなゼッフィレッリ映画は、もう断然『ムッソリーニとお茶を』だ。ロミジュリも素晴らしいが、ゼッフィレッリの自伝的な映画でもある『ムッソリーニとお茶を』は、何度見ても感動する。これだけの豪華出演陣を差配できるのもゼッフィレッリだからだろう。
まあ、異論のある方も多いだろうけれど、ゼッフィレッリは私にとって特別な映画監督なのです。カラスが彼にとって永遠だったように。
永遠のフランコ・ゼッフィレッリ
ゼッフィレッリ監督、ご冥福をお祈りします…ロミオとジュリエット、また観たくなってきました。
この映画のファニー・アルダン、ほんと素敵ですよね~。ハリウッド女優にはないエレガンスと知性。豪快で闊達なところも好き。カッコいい女優!「隣の女」や「日曜日が待ち遠しい!」「ペダルデュース」とか、これぞフランス女優!な魅力でした。
ゼッフィレッリ自伝、読んでみたいです!図書館にあるかな~。ムッソリーニとお茶を、も観たいです!
そうそう、ゴーモン映画祭ってご存じ?今月末から来月末にかけてあるので行きたいけど、お江戸なので😢すねこすりさん、ご参加の予定ございませんの?
ファニー・アルダン、そう、カッコいいんですよ。ドヌーヴみたいに超美人て感じじゃないけど、すごく美しいですよね。
ゼッフィレッリが特典映像で、彼女が生きているカラスに見えて困った…みたいなこと言ってました。
隣りの女、私も好きです〜♪ 相手がドパルデューってのがイマイチでしたが。ああいう大人なヒリヒリする恋愛映画、なかなかないですよね。
「日曜日が待ち遠しい!」「ペダルデュース」はどちらも未見なので、見てみたいです!
ゼッフィレッリ自伝、多分図書館にあるんじゃないかなぁ。面白いですよ。映画好きなら楽しめると思います。
ゴーモン映画祭!! さすがたけ子さん、事情通! 私もついこないだ知ったんですが、タイムテーブルとにらめっこ中です。たけ子さんのオススメ作品あったら教えてください!