『セクシー田中さん』を描いたマンガ家芦原妃名子が自死したことで、大きな問題になっているマンガ原作作品のドラマ化。大まかな経緯は、脚本を担当した相沢友子のインスタグラムでの投稿と、それに対応する形で芦原妃名子が書いたXへの投稿でわかりますが、日本テレビや小学館がきちんと説明をしていないのでわからないところも多いです。本来なら日本テレビと小学館はきちんと説明をすべきだと思いますが、それは置いておいても、原作を作者の思いとは異なる形でドラマ化するのは間違っていると思うので、まずは原作者の意向を最優先することが基本でしょう。
一方でマンガとドラマでは表現媒体が変わる以上、表現手法が変わることは当然です。よく話題になるのがキャストの見た目が原作と違うという話ですが、これはある程度は仕方ないと思っています。大事なのは表現しているキャラクターの本質の部分です。そこが原作と合致していれば、見た目の違和感はドラマを見ているうちに徐々に馴染んできます。『孤独のグルメ』がその典型例で、原作マンガよりもドラマの松重豊の方がむしろ「本物」に感じるほどです。
他にも尺の問題もありますし、マンガならではの表現が実写では難しいこともあるでしょう。絵面として表現しづらい、もしくはわかりづらいというコマもあるでしょうから、なんでも忠実に表現すれば良いということではないと思います。そこはある程度ドラマの専門家に任せるべき部分かも知れません。それによってドラマの「改変」が「改良」になることもあるでしょう。大事なのは原作者とドラマスタッフがきちんと納得いくようにコミュニケーションを取っているかということであり、もっと根本的には原作に対する敬意と愛情がドラマスタッフ、特に脚本家にあるかどうかです。
かつてマンガ原作のドラマで好評だった作品は、僕の見た限り原作を好きな人たちが作っているんだろうなと感じられました。『孤独のグルメ』だけではなく、『のだめカンタービレ』も『きのう何食べた?』もそうでした。それに対して『セクシー田中さん』の相沢友子が脚本を書いた『ミステリと言う勿れ』は改悪している部分が多く、ドラマとして決してつまらなかった訳ではありませんが、本来ならもっと面白い作品なのにちょっと残念だと感じました。原作の面白さに助けられていますが、原作に届いていません。逆に『重版出来!』と『逃げるは恥だが役に立つ』は原作を尊重しつつさらに超えてきていました。どちらも野木亜希子の脚本です。さすがです。
作者にしてみればドラマ化にシビアな人もいれば、全く別物と丸投げする人もいるそうですから、感じ方はそれぞれなのでしょうが、ファンは原作原理主義になりがちなので、原作を読まないでドラマだけ見た人とは感想も違ってきます。長年のマンガ好きのドラマ好きとしては、20世紀の原作を蹂躙するような酷いドラマ化を知っているだけに、近年のドラマ化はまだ随分とマシだなと思っています。それにこれだけマンガ原作のドラマが多いと玉石混淆になるのも無理からぬことです。NHKとテレビ東京はマンガ原作ドラマでクオリティが高い作品が多いので、制作している放送局で見る作品を選んだ方が良いのかも知れません。