書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

桐本東太 「書評 冨谷至著『文書行政の漢帝国』」

2013年04月25日 | 東洋史
 冨谷氏によれば、漢代木簡に記された「如律令」「以急為故」といった表現は、「しかるべく実行せよ」「任務をなおざりにしてはならない」というくらいの意味しかない、「決まり文句」だそうである。あと、「有書」(~について)、「有数」(しかるべく処理せよ)など。
 ただし、このことについては、評者の桐本氏も、注意するように、「どこまでが意味のない慣用表現で、どこまでが実質的意味を有する語句か、その境目に決め手を欠くのである」(桐本110頁に引く冨谷著215頁)。書いた当人においてすでに曖昧だった可能性もあろう。
 なお、これに関して、近世の「照例」もこの類ではないかとふと思った。「例」という何か実体(具体的な先例とか慣習法とか条文化された法令とか)がとくに存在していたわけではなく、「これまでどおりに」というくらいの意味しかない、決まり文句。

(『史林』96-2、2013年3月、108-113頁)